2014年05月26日

中国との終わりなき軍拡競争に突入する日本

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。エスカレートする日中関係の対立に警告する意味で書きました。

ジョセフ・ナイが2010年の慶應義塾大学での講演で、「争いが必然であると信じることが争いの種になるだろう」と述べていました。

 "Beliefs in inevitability of conflict will become a source of conflict." - Joseph Nye (a speech at Keio University in 2010)

今の日中関係はまさにこの相互不信の状態に陥っています。では、この相互不信のジレンマから抜け出すためにはいったい何をどうすればいいのか。まず相手国と対話を始め、お互いの意図がいったい何であるのか、互いに明確化して、そして、理解するように心がけることが必要だと思います。でないと、いつ何時、誤解や誤算から思わぬ軍事衝突を招きかねません。少しでも相互不信を拭うよう対話すべきです。米ソ冷戦を終結させたレーガンとゴルバチョフがそうしました。

ちなみに記事の見出しにある軍拡競争(=軍備拡張競争)とはもともとどのような意味なのでしょうか?「各国家が自国の軍備を拡張し、他国よりも軍事面で優位に立とうとする争いのことを指す。軍備の拡張には兵員の増強、軍事技術の開発、装備の更新などが含まれる」。つまり、一般には単なる軍事費の拡大よりも、もっと幅広いことを指し示しています。僕もその意味で使っています。

img_c6dbde9d3e8ccc427b78e2a652e8b49b175508.jpg
5月15日、中国、軍トップが訪米し統合参謀本部議長との会談に臨んだ(写真:ロイター/アフロ)

中国との終わりなき軍拡競争に突入する日本

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 2014年5月26日

5月24日、尖閣諸島北方上空で起きた自衛隊機への中国軍機異常接近事件は、偶発的事故がいつ起きてもおかしくないことを、日本国民に印象付けた。中国の強圧的な攻勢は止まらない。安倍政権が尖閣諸島を含む南西諸島地域での防衛態勢を急ぐ中で、日本は中国との事実上の軍拡競争に突入している。

中国の国防費は2010年度を除き、四半世紀の歳月にわたって2ケタのパーセンテージで伸び続けている。中国経済が今後も高水準で成長していくことが見込まれる中、中国の軍事費はさらなる拡大が予想されている。そして、日本はただでさえ、1000兆円にも及ぶ巨額の公的債務を抱え、財政上の厳しい制約を受けていることから、中国との軍拡競争にかないっこないとの見方がある。

その一方で、中長期的には中国は一人っ子政策の影響もあり、日本以上の少子高齢化に直面。経済成長が鈍化し、2ケタの国防費の伸びをいずれ維持できなくなるとの見方もある。

尖閣諸島の領有権をめぐって、挙げた拳をなかなか振り下ろせずに、チキンゲームを続ける日中。そして、中国を事実上の「仮想敵国」とみなして次々と手を打つ安倍政権だが、中国との軍拡競争で果たして勝ち目はあるのだろうか。


南西諸島の防衛態勢強化を急ぐ安倍政権

安倍政権は昨年12月、今年度から5カ年の防衛予算の総額を24兆6700億円とする次期中期防衛力整備計画(中期防)をまとめた。中期防の総額は2期連続で削減されてきたが、中国の台頭や北朝鮮の核ミサイル戦力の増強によって東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、防衛予算の増額が必要と判断。増額は3期ぶりとなった。

安倍政権がとりわけ強化を急いでいるのが南西諸島地域での防衛態勢だ。中国の海洋進出をけん制する狙いがある。ここで防衛問題に詳しくない読者のために、自衛隊の主な離島防衛策をさらっとまとめてみる。

まず、空では今年4月に航空自衛隊那覇基地に「空飛ぶレーダーサイト」と呼ばれる早期警戒機「E2C」4機からなる飛行隊を新設。さらに、2016年3月末までには那覇基地に配置している空自の戦闘機部隊も1個飛行隊(F15戦闘機約20機)から2個飛行隊に増やし、中国の領空侵犯事案に対応する防空能力を高める。

陸上でも2015年度末までに、日本最西端の与那国島に150人規模の陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置する方針だ。この部隊は旧ソ連・ロシアと対峙してきた北海道稚内市にある宗谷岬の第301沿岸監視隊がモデル。稚内同様、与那国島にも沿岸監視レーダーなどを建設する計画だ。

また、陸自では2018年度をめどに、奄美大島のほか、沖縄県の宮古島と石垣島にも、「現代の防人」となる各400人規模の警備部隊を配備することを検討している。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、対馬警備隊をモデルにしたこれらの部隊をquick reaction force (QRF)、つまり、緊急即応部隊とみなしている。

海では、機雷の除去や潜水艦探知を1隻で行う新型の多目的の護衛艦や多用途ヘリコプター(艦載型)の新たな導入を目指している。

さらに最も目覚ましい動きとして、陸自の西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市)所属の700人が米国など国内外で訓練を重ね、既に離島奪還が目的の水陸両用作戦を展開できる部隊に仕上がってきていることだ。今年4月初めに同連隊を視察した米海兵隊の幹部(大佐)は筆者の取材に対し、「既に事実上の日本版海兵隊」と目を見張っていた。

別の米海兵隊の元幹部も「(同連隊は)ここ2年間で驚くべきほど速く、そして、スムーズに水陸両用作戦能力を習得した。陸上自衛隊はオーストラリアより数年後にその能力の習得努力を始めたが、すでにオーストラリアを追い越した」と話した。防衛省は同連隊700人を中核とし、将来は3000人規模からなる水陸機動団を新設する計画だ。

こうした日本の部隊の新編や精鋭化は、日本の抑止力を高め、中国に尖閣諸島を侵略したり、日本の領空領海を侵犯したりする気や意図を持たせなくする狙いがある。しかし、東シナ海上空で24日にも、海上自衛隊のOP3C画像情報収集機と航空自衛隊のYS11EB電子測定機が、中国軍SU27戦闘機2機の異常接近を受けるなど、中国の高圧的な姿勢は一向に変わらず、逆に両国間の緊張は張りつめたままだ。


中国の軍事費増大を恐れる日米

安倍首相は2012年12月の自らの第二次政権の発足以来、繰り返し、中国の軍事力増強、とりわけ軍事費の拡大に強い懸念を表明してきた。昨年9月には米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」がニューヨークで開いたセ レモニーの場で、具体的な国名には触れなかったものの、「すぐそばの隣国」の中国の国防予算が20年以上、2ケタの増額を続けてきたことを指摘した。

5月15日に公表された首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書の中でも、次のように中国の軍事費拡大について強い懸念が改めて示されている。安倍政権の中枢の危機感や焦りがにじむ内容だ。

「中国の影響力の増大は明らかであり、公表国防費の名目上の規模は、過去10年間で約4倍、過去26年間で約40倍の規模となっており、国防費の高い伸びを背景に、近代的戦闘機や新型弾道ミサイルを含む最新兵器の導入とその量的拡大が顕著である。中国の国防費に関しては引き続き不透明な部分が多いが、2014年度公式発表予算額でも12兆円以上であり、我が国の3倍近くに達している。この趨勢が続けば、一層強大な中国軍が登場する」

中国の急激な軍事費増額に懸念を示しているのは日本だけではない。米国も同様だ。5月14日に東京であった米中関係を議題とするシンポジウムでは、ブルッキングス研究所シニアフェローのマイケル・オハンロン氏は米国の国防予算の4分の1にまで増大した中国の軍事費について、「中国の兵力数は既に世界一だか、中国は軍事費の面からも優に世界第2位の軍事大国としての地位を確立した」と指摘、「わずか10年前までは中国の軍事費は日本やドイツ、英国、フランス、ロシアとそんなに変わらなかった。どの国も500億ドルから600億ドルの範囲内で収まっていた」と述べた。

そのうえで、オハンロン氏は「中国経済が7%成長を続けると想定し、このまま中国が対GDPで2%の割合で軍事費を拡大すれば、10年後には軍事費が倍増する。中国は軍事費増額のペースを落とさなければならない」と中国側に促した。

ちなみに、英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)が発表した「ミリタリー・バランス2013」によると、軍拡を進める中国に対応してインドやパキスタンなど周辺国も連鎖的に軍備を増強。このため、2012年には初めてアジアの軍事費が欧州を上回った。

それでは、中国の軍事拡大を下支えする中国経済はいつまで高度成長を続けるのか。

海江田万里・民主党代表も5月21日付の朝日新聞の記事の中で、「確かに北東アジアの軍事的脅威は増大している。一方、中国の経済成長は減速し、長期的には日本以上に急速な高齢化を迎える。2ケタ台の国防費の伸びをいつまで維持できるのかという問題も出てくるだろう。世界情勢の変化を冷静に踏まえた判断が求められる」と述べている。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏は、都市化と、高速道路・高速鉄道のインフラ建設という中国の内需主導型の高度成長を支える2大要因が2020年前後まで継続すると予測。ただし、2020年以降は労働力人口の減少のスピードが加速し、高度成長にブレーキがかかり、その後は安定成長に入ると見込んでいる。

中国が国防費を今後も大幅に増やし、尖閣諸島周辺での挑発行為も辞めない中、日米同盟を強化し、中国に対抗しようという安倍首相の積極的平和主義は一見、国民の目にもっともらしく映る。

しかし、日本は巨額の財政赤字を抱えており、現状からの防衛費拡大は財政規律の悪化リスクにつながりかねない。さらに中国の軍拡路線に対峙するためには、社会保障分野など他の分野の予算を抑制しつつ、さらなる増税と厳しい緊縮財政を敷きながら、防衛予算を拡大させることになりかねない。防衛省はここ数年、防衛予算の確保を目的に、意図的に中国の脅威を強調してきている下心も見え隠れする。

中国では内政上の危機が進行

一方の中国も、民族対立など内政上の危機が進行し、予断を許さない国内事情を抱えている。

日中関係は現在、古典的な「セキュリティ(安全保障)ジレンマ」に陥っている。つまり、ある国の国防力の増強が他国にとっての脅威となり、悪循環で軍事的緊張が高まってしまっている。これを断つためには、首脳レベルの対話を再開。尖閣問題を棚上げし、空や海での軍事衝突回避を目的にした、日中間の危機管理メカニズム構築の協議を始める必要がある。

1921年のワシントン会議に日本首席全権委員として出席した加藤友三郎は次のように言っている。「国防は軍人の専有物にあらず。戦争もまた軍人にてなし得べきものにあらず。…国防は国力に相応ずる武力を備うると同時に、国力を涵養し、一方外交手段により戦争を避くることが、目下の時勢において国防の本義なりと信ず」。

先の大戦で、なぜ日本は負け戦の中、戦線を拡大させていったのか。本来は「備え」であるはずの軍事を最重要視し、肝心かなめの外交努力を怠ったことも大きな要因ではないか。外交の出番だ。この加藤友三郎の言葉を今、かみしめたいものだ。
posted by Kosuke at 11:56| Comment(0) | 東洋経済

2014年05月19日

集団的自衛権の行使、「解釈改憲」では禍根

img_19647aa4e467caf66754227085889623369849.jpg

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。憲法の解釈変更ではなく、あくまで憲法改正で集団的自衛権の行使容認を目指すべき、との立場で書きました。僕は憲法学者ではありませんから、あくまで安全保障分野に関わる一記者、そして、一国民の立場から思うところを書かせてもらいました。憲法9条では、日本は「戦力」(war potential)を保持しないと書かれています。war potentialとは「潜在的に戦争を遂行できる能力」。文字通りに読めば、自衛隊はおろか、戦闘機や戦車を製造する三菱重工も、装甲車を製造するコマツも憲法違反になりかねない。集団的自衛権の行使容認に向けて、これ以上の憲法解釈の拡大は無理でしょう。

集団的自衛権の行使、「解釈改憲」では禍根

海外メディアも憲法9条との矛盾を指摘

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年5月19日

米国の覇権力の低下や中国の台頭、北朝鮮の核ミサイル戦力の増強によって東アジアをはじめとする国際情勢が不安定化している。そんな中、安倍首相が「集団的自衛権」の行使容認を急いでいる。自らの私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書を受け、安倍首相は今秋の臨時国会前までに事実上の「解釈改憲」という手法で行使容認を閣議決定する構えだ。

しかし、言うまでもなく、憲法は国の最高法規であって、国の根幹。時代の要請や情勢の変化が生じているからと言って、一内閣の判断で変えるべきものではない。自民党が将来、下野し、今の野党が政権を担ったときに、異なる内閣の閣議決定で集団的自衛権の行使を再び禁止したらどうなるのだろうか。真っ正面から憲法改正で臨まなければ禍根を残すだろう。

ここでは国内メディアではあまり論じられていない点について、あえて触れてみたい。

自衛隊は拡大解釈の矛盾の産物

日本政府は戦後、ラクダが針の穴を抜けるかのような憲法解釈を重ねてきた。しかし、こうした解釈改憲は既に限界に来ていることは誰の目にも明らかなことだ。渦中にある憲法9条をもう一度読んでみよう。

日本国憲法第9条

第1項日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第2項前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


9条はそれ一つで憲法の「第2章戦争の放棄」を構成している。もともと連合国軍最高司令官のダグラス・マッカーサー元師が日本の新しい憲法について示した3原則、つまり、(1)限定的君主制(天皇制を残す)、(2)戦争放棄、(3)封建制度の廃止、のうちの第2の原則に由来している。

9条は、戦争の否定という「絶対平和主義」とも言えるような崇高な理想主義を掲げている。しかし、その一方で、条文を素直に読めばどうみても矛盾するとしか思えない世界有数の軍隊である自衛隊を保有してきた。

日本国憲法は米国の占領下という特殊な環境下で作られた。その誕生経緯からして、本来は英文で読むべきであるものである。そして、憲法を英文で読むと、こうした矛盾が一層、浮き彫りにされる。

第2項の一部を元の英文で示すと、以下のようになる。

“land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained.”

日本国憲法で日本語で書かれた「戦力」とは、もともと英文では「war potential」であることが分かる。war potentialとは文字通りに訳せば「潜在的に戦争を遂行できる能力」の意味だ。

多くの日本のハイテク企業が憲法上の疑義

では、「潜在的に戦争を遂行できる能力」とは一体どのようなものだろうか。連合国総司令部(GHQ)内に設けられた憲法制定会議の運営委員会のメンバーだったチャールズ・L・ケーディス陸軍大佐によると、「政府の造兵廠(ぞうへいしょう)あるいは他国に対し戦争を遂行するときに使用され得る軍需工場のための施設」を指す。同大佐は「戦争放棄」の条文を起草したと言われている。

war potentialが、かなり幅広い意味を有していることがわかるだろう。つまり、本来の意味では、事実上の陸海空軍である自衛隊の存在はもちろんのこと、戦闘機や戦車を量産してきた三菱重工業も、装甲車を製造するコマツも、「戦争を遂行するときに使用され得る軍需工場のための施設」を持っていることになり、憲法に反した行為となる。

現代の兵器はハイテク化が進む。ミサイルのシーカー(目標捜索装置)などに使用され、ビデオカメラなどに欠かせない「電子の目」CCD(電荷結合素子)を製造するソニーも当然、war potentialに当たり、憲法に反した製品を製造していることになり得る。現代の戦争で重要な役割を果たすC4Iシステム(指揮、統制、通信、コンピューター及び情報のシステム)に関わるNECや三菱電機、東芝、富士通、日立製作所など世界に名だたる日本のハイテク企業が製造している製品の中には、war potentialが多い。

そもそも、日本語の「戦力」であっても、現状の憲法解釈には大きな矛盾がある。振り返っていただきたい。小学生の高学年か中学生の頃、学校の授業で憲法9条の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」との条文を読んだ時に、「あれ?でも、自衛隊があるじゃん?」と子供心に疑問を感じた人も少なくないだろう。筆者もそうだった。

日本国憲法の英文を読んだ外国人も同じように感じている。例えば、筆者の同僚であるジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(JDW)のアジア太平洋担当のエディター(編集者)であるジェームズ・ハーディー氏は、15日の安保法制懇の報告書提出を受け、JDWの姉妹誌であるジェーンズ・インテリジェンス・レビューに以下のように書いた。

「(憲法9条は)“陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない”と述べている。日本の総勢24万5000人の自衛隊は明らかにこれに矛盾するものだ」

1959(昭和34)年の砂川事件をめぐる最高裁判決、いわゆる砂川判決で、自衛隊は「合憲」のお墨付きを得たのは事実だ。しかし、外国人が憲法を英語で素直に、文字通りに読んだ場合、war potentialという言葉が、日本語で訳された「戦力」よりも幅広い意味を持ち、海外勢が日本国憲法と日本の実態にかなりの矛盾を感じ取っていることを認識しておいた方がいい。米ニューヨークタイムズ紙も5月8日付の社説で、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を憲法9条の解釈変更で実現しようとしていることに異を唱え、「日本は民主主義の真の試練に直面している」と指摘した。

日本政府は、憲法9条第2項が禁じている「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度を越えるもの」との政府統一見解を示してきた。そして、「自衛のための最小限度」や「専守防衛」に合致させるために、政府は「攻撃的兵器は持たない」との原則を確立。このため、かつては空中給油機の導入が長年認められなかったり、戦闘機から爆撃照準装置が外されたり、といった事態に陥った。「そもそも『攻撃型兵器』などというものは存在しない。攻撃型兵器が駄目なのであれば小銃だって駄目でしょうし、護衛艦だって駄目でしょう。世界の常識とのズレを勘案しないと、外国にはまったく通じない話になる」(軍事ジャーナリストの清谷信一氏)との批判は今も根強い。

安倍政権は「必要最小限度の武力の行使」であれば問題ないと訴え、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使の容認に踏み切ろうとしている。安倍首相は15日の記者会見で、「積極的平和主義」の旗を掲げ、国連平和維持活動(PKO)など国際協力活動を積極的に推進する際、国際協調が大切であるとの考えを示した。そうであるならば、国際理解を得るうえでも、融通無碍(ゆうずうむげ)な憲法解釈によってではなく、正々堂々と真っ正面から、憲法9条の改正で臨むべきではないのか。

憲法前文と13条で9条を「上書き保存」

安保法制懇の報告書は、憲法9条以外の記述によって、集団的自衛権の行使は容認できる、と結論付けている。すなわち、憲法の前文に書かれた「平和的生存権」や、13条に記された「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を根拠にして、個別自衛権に加えて、これまで9条が武力行使にあたるとして禁じてきた集団的自衛権の行使も可能だとしているわけだ。

しかし、これはいかにも無理がある。13条の「生命、自由及び幸福追求の権利」は、もともと米国の独立宣言(1776年)の有名な一節からGHQが持ってきて、マッカーサー草案に盛り込んだものだ。

“We hold these truths to be self-evident: That all men are created equal; that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights; that among these are life, liberty and the pursuit of happiness.”

われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということを。


米国の独立宣言において法の下における個人の平等や人間としての不可侵の権利を掲げた有名な箇所が、日本ではいつの間にか国家安全保障での個別自衛権の根拠の一部に用いられてきた。そして、安倍政権はそれをさらに拡大解釈し、集団的自衛権の根拠の一部にさえもしようとしている。パソコンでの文書作成に例えるならば、憲法前文と13条で9条を「上書き保存」し、消し去ってしまうようなものだ。

振り返れば、戦前の帝国日本では明治憲法の下、天皇が持つ軍の最高指揮権である統帥権について、軍が拡大解釈して政治への介入を強化、戦線を拡大させていった。現在の日本ではシビリアンコントロールが十分に確立されてはいるものの、一内閣の裁量で憲法の解釈を変更し、政府の権力を大きく拡大することに対し不安を感じる国民は多いはずだ。この国に、リーガルマインド(適切な法的判断)はないのだろうか。今、法治国家の根幹部分が揺らいでいるのである。
posted by Kosuke at 12:09| Comment(0) | 東洋経済

2014年04月28日

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。「中国を武力攻撃するレッドラインはない」

img_ea31bd4b14e74a5239368f8371cc4a07128668.jpg
「すきやばし次郎」で歓談。安倍首相の思い届かず、1対1の会談は行われなかった(内閣府広報室提供)

「中国を武力攻撃するレッドラインはない」

明らかになった尖閣を巡るオバマ米大統領の真意

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年4月28日

大手新聞、テレビをはじめとする国内メディアは、4月24日に開かれた日米首脳会談では「オバマ米大統領が大統領として初めて、尖閣諸島に日米安全保障条約の第5条が適用されると明言した」ことを華々しく報じた。

しかし、これはややピントのずれた指摘といえる。今回の日米首脳会談の注目点はそこではない。むしろ、これまで対中強硬姿勢を続けてきた安倍晋三首相が、オバマ大統領に諌められ、中国との対話姿勢をとって緊張をこれ以上エスカレートしないように促されたことが、重要なポイントだ。

日米安保条約の第5条には、「日本国の施政の下にある領域」が攻撃を受けた場合、米国に防衛義務があることを記している。

大統領が首脳会談後の記者会見で「日本の施政下にある領土は、尖閣も含めて安保条約第5条の適用対象となる」と述べたことから、国内メディアはこの部分に一斉に飛びついた格好だ。大統領が明言したのだから、これで中国が尖閣諸島に攻め入ってきても米軍が日本を助けてくれるとの楽観ムードが、日本の政治家にもメディアにも蔓延している。


Our position is not new

こうした楽観ムードは、誤りだ。

米国による「尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用」は何も目新しいことではない。例えば、米政府はクリントン政権当時の1996年、キャンベル国防副次官補が「尖閣諸島は日米安保条約の対象になる」と明言。2004年のブッシュ政権下でも、当時のアーミテージ国務副長官が尖閣諸島への安保条約適用を再確認した。オバマ政権になってからの09年3月にも、米政府はこうした公式見解を日本政府に伝えた。

閣僚レベルで言えば、2010年9月に尖閣諸島で発生した海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件後の同月23日、当時のヒラリー・クリントン国務長官がニューヨークで前原誠司外相に「日米安保条約第5条は尖閣諸島にも適用される」と確約した。それ以降、歴代の国務長官と国防長官が何度も繰り返して表明してきたポジションだ。

それでも、「いや、中国の海洋進出をけん制する意味で、大統領自身の今回の明言は重要だ」と言う読者もいるだろう。では、当のオバマ大統領自身は24日の記者会見で何と言ったか。

尖閣諸島への日米安保条約の適用について、日本人記者から問われたオバマ大統領は「私たちの立場は新しいものではない(Our position is not new)」と切り出し、以下のように答えた。

「ヘーゲル国防長官が日本を訪れた時も、ケリー国務長官がこちらを訪れた時も、両方とも、私たちは一貫してこうした立場を示してきた。私たちは尖閣の領有権についての最終的な決定をする立場はとらない。しかし、歴史的にそれらは日本が施政下に置いてきた。そして、それらは一方的な変更にさらされるべきではないと思っている。これまでも一貫して述べてきたのは、私たちの日米同盟、つまり、日米安保条約は、日本の施政下のすべての領域に当てはまるということであって、これはなにも新しい立場ではない。これまで一貫して述べてきたことだ」

文字通り、オバマ大統領は「これがニュースではない」と言っており、過去から何も変わっていない立場である、と強調している。


img_5e713f299df8a58a393104c30166b379237093.jpg
4月5日、来日中のチャック・ヘーゲル国防長官の表敬に応じる安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

尖閣諸島をめぐるオバマ政権の従前通りの姿勢については、安倍政権の中枢や日本の保守層が批判をしてきた。

つまり、日米同盟が本当に揺るぎないものであるなら、米国は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲内にある」などという婉曲的な言い方をせずに「尖閣諸島が攻撃占領されたら、米国は日本と一緒に戦う。日本を断固守る」と明確に言うべきだと。そのことが、中国に対する強烈な抑止力になるためだ。

なぜ米国はそう明確に言わないのだろうか。

そもそも米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域が武力攻撃を受けた場合でも、米軍がただちに100%、自動的に来援することを保障するものではない。この条文には「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という制約が付されている。米国の憲法では、宣戦布告権や軍隊の編成権、歳出権などは連邦議会に属している。

中国軍が尖閣諸島を武力攻撃し占領した場合に、果たして連邦議会が米軍の出動を認めるだろうか。

米議会には、米国に多数の犠牲と財政負担を強いたイラク戦争やアフガニスタン戦争の二の舞を恐れ、シリア攻撃さえもためらった厭戦ムードが根強くはびこっている。そんな米議会がすんなりと、極東の小さな無人島のために米軍出動の権限行使を大統領に授けるかどうかについては、疑問符が付く。

尖閣問題をめぐる中国に対する米国の実際の武力行使の可能性について、日米首脳記者会見中に、オバマ大統領のかなり踏み込んだ、極めて重要な発言があった。

オバマ大統領への弱腰批判が強まったシリアやウクライナ情勢を引き合いにして、CNN記者が中国に対する軍事行動を開始するレッドライン(越えてはならない一線)について質問をした。それに対し、オバマ大統領は「日米安保条約は私が生まれる前からあり、これは私が引いたレッドラインではない」と発言、「日本の施政下にある領土がすべて安保条約の適用範囲に含まれているというこの標準的な解釈は、いくつもの政権が行ってきた。この立場に変化はない。そして、レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」と述べた。

英語での発言は、以下の通りだ。


“The treaty between the United States and Japan preceded my birth, so obviously this isn't a red line that I'm drawing. It is the standard interpretation over multiple administrations of the terms of the alliance, which is that territories under the administration of Japan are covered under the treaty. There's no shift in position. There's no red line that's been drawn. We're simply applying the treaty.”

この発言の後半部分の「レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」との部分を聞いた中国共産党の指導者や人民解放軍の幹部らはどう思うだろうか。おそらく、にんまりほくそ笑んでいるはずだ。

これこそが、尖閣をめぐる、もっとも重要な発言といえる。日本の主要メディアとは異なり、米国の『ワシントンタイムズ』やボイス・オブ・アメリカ(VOA)といった主要メディアは、「米国は尖閣問題では中国にはレッドラインを引いていない」とのオバマ大統領の発言を見出しにとって大きく報じている。


対中強硬姿勢の安倍首相に忠告

今回の日米会談で何より目立ったのが、対中強硬姿勢を続けてきたと欧米諸国からみられている安倍首相が、オバマ大統領に強く諌められたことだ。すなわち、安倍首相は、対中強硬姿勢から対話路線に転じるよう、強く促された。オバマ大統領に対し、中国へけん制をするよう求めていた安倍政権にとっては、極めて厳しい反応だった。

記者会見でオバマ大統領は尖閣問題について次のように述べた。日米をはじめとする記者を前にした会見で、安倍首相に強く物申したことが如実にわかる内容だ。

「安倍首相との議論において、私が強調したのは、この問題を平和的に解決するということの重要性だ。状況をエスカレートさせるのではなく、発言を抑制し続け、挑発的な行動を避けることだ。どのように日本と中国がお互いに協力をしていくことができるかを決めるべきだ。そして、より大局的な見方をすれば、私たちアメリカは、中国とも強い関係を保っている。中国はこの地域だけでなく、世界にとって非常に重要な国である。明らかなことだが、多くの人口を抱え、経済も成長している。私たちは中国が平和的に台頭することを引き続き、奨励する。中国とは、貿易や開発、気候変動といった共通の課題で多大な好機が存在している」

さらに、「安倍首相に直接述べたが、この問題について、対話をせずに、事態がエスカレートし続けることは重大な間違いだということだ。日本と中国は信頼醸成措置を取るべきだ。そして、できる限りのことを外交的に、私たちも協力していきたいと思っている」と述べた。

オバマ政権は中国に対し、お互いを尊重する協調主義的な「関与政策」を推し進めている。その一方で、アジア太平洋地域で海洋進出拡大を続ける中国を米軍の強いプレゼンスでけん制する「抑止政策」 を、不測の事態に備えたリスクヘッジ(リスク回避)策として採用している。

対する日本。日本は、中国の強圧的な外交攻勢と軍事的な脅威に直面しているため、米国に「抑止政策」の強化を期待している。つまり、東アジアへのリバランス(再均衡)戦略を強化することを求めている。しかし、その思いとは裏腹に、最近の米国は「関与政策」を通じた米中の蜜月化が目立つ。2020年代前半には中国の国内総生産 (GDP)が米国を抜き、世界最大の経済大国に躍り出ることがほぼ確実視される中、米国の中長期的な戦略は、あくまで中国の巨大市場から利益を得ることが主眼の「関与政策」であり、最近はそれにぐっと軸足を置いてきている。

4月初めのヘーゲル国防長官の3日間にも及ぶ訪中でも、米中の「新型大国間関係」をさらに発展させた「新型の軍同士の関係」を築くことで米中が一致。ヘーゲル国防長官が、現在の米中の軍事交流の拡大に前向きで高い評価を与えていることを示した。

こうした米国の姿勢に対して、安倍政権では尖閣諸島や2013年11月に中国側が一方的に宣言した防空識別圏(ADIZ)など、中国が主張するところの「核心的利益(コア・インタレスト)」の拡大に米国が譲歩してきているのではないか、との疑念が高まっていた。

そんな中での来日である。オバマ大統領にはこれまでより、一段階も二段階もレベルアップした強い中国けん制の言葉を期待していたのだが、完全に期待外れに終わった。

今、米国では政界だけでなく、学界でも中国との将来の関係を見据え、中国に大幅に譲歩するような論説が登場している。シカゴ大学の著名な教授である、ジョン・ミアシャイマー氏は、「台湾に別れを告げよう(Say Goodbye to Taiwan)」という論文をナショナル・インタレスト誌(2014年3〜4月号)に寄稿。将来の緊密な米中関係を踏まえ、台湾が香港方式で中国本土に吸収されることが合理的な選択である、と論じた。


ますます密接になる米中連携

img_60f19d4818db500ff4071ca18ca88b7d93487.jpg
日本科学未来館で子供たちを前に話をするオバマ大統領(内閣府広報室提供)

米中新時代の動きはかなり以前から起きている。

2004年に中国のパソコンメーカー・レノボ(聯想集団)がIBMのPC部門を買収。昨年9月には中国の食肉大手の双匯国際が、米豚肉生産大手のスミスフィールド・フーズを買収した。

つまり、パソコンでも食品でも農業でもこうした様々な業界での合併・買収を通じ、米中の経済分野での統合化や蜜月化はどんどんと進んできている。昨年の米中貿易額は初めて5000億ドル(51兆円)を突破した。

軍事関連分野でも、2011年1月には中国のステルス機J20(殲20)を開発した中国航空工業集団(AVIC)が米エアロスペース社と提携し、米海軍のヘリコプターや米空軍のジェット練習機の入札に参加することを『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』が報じた。2011年7月には実際に米空軍が中国傘下のシーラス・インダストリーズに練習機を発注するなど、密かに米中協力が進んでいる。

オバマ大統領に対中攻勢でブレーキをかけられた安倍首相。今後は好むと好まざるとにかかわらず、対中対話を重視したソフト路線へと舵を切ることになるだろう。

安倍首相は4月24日の日米首脳会談後の共同記者会見でも「中国については、法の支配に基づいて、自由で開かれたアジア太平地域を発展させ、そこに中国を関与させていくため連携していくことで合意した」「今後とも対中政策に関して、日米で緊密に連携していくことも確認した」と述べ、中国に対しては対決姿勢より関与政策に乗り出す考えを示した。

安倍首相からは今後、対中対話を積極的に目指す言葉や姿勢がさらに示されるはずだ。自国の防衛を米国に大きく頼っている以上、それはやむを得ない日本の現実なのである。
posted by Kosuke at 10:58| Comment(0) | 東洋経済