2014年07月26日

防衛装備移転三原則に形骸化の恐れ

img_2285be56628d6f16396dd1138221eca3183383.jpg

防衛装備移転三原則に大きな抜け穴

初めての2事例を検証すると問題だらけ

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年7月25日

日本が購入するF35戦闘機に搭載するミサイル技術を日英で共同研究することになった(写真:U.S. Navy/アフロ)

日本政府は7月17日、国家安全保障会議(NSC)の閣僚会合を開き、迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の部品の米国への輸出と、F35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究を認めた。日本の武器と関連技術の海外移転を原則として禁じてきた長年の禁輸政策を転換して、4月に定めた「防衛装備移転三原則」の下で初めてとなる2事例だ。

こうした武器の輸出解禁と国際共同開発は、日本の防衛企業の海外市場進出への足掛かりになるものだ。輸出による量産効果で自国での生産・開発コストを押し下げ、生産力や研究生産基盤を維持できるメリットがある。また、他国の高度な技術を吸収し、開発リスクの分散化も図れる。軍備のハイテク化で兵器価格が高騰するなか、社会保障費等の増大で財政難の日本にとっては、とりわけ兵器の調達コストを削減することが急務になっている。

防衛装備移転三原則とは?

4月に新たに定められた「防衛装備移転三原則」は以下の3つになっている。(1)紛争当時国や国際条約違反国など移転を禁止する場合の明確化、(2)平和貢献や我が国の安全保障に資する場合など移転を認め得る場合の限定と厳格審査、(3)目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保、だ。

しかし、こうした「防衛装備移転三原則」を今後もどこまできっちりと厳格に適用し、紛争当事国への流出を防止できるのかなど、課題も多い。特に日本は唯一最大の同盟国、米国の対外武器輸出の動向に左右され、敏感にならざるを得ない。米国は特別扱いとなっており、日本がなかなか歯止めをかけられないのが実情だ。そして、十分な人員体制と情報収集力を確保した専門部局による的確な判断や管理体制がなければ、いかに日本企業が独自の先端技術や製品を有していても、企業現場では海外進出にいつまでも二の足を踏む事態が予想される。今のところ、1987年の東芝機械ココム違反事件のような事態を恐れ、防衛装備品の輸出にはいまだおっかなびっくりの日本企業が少なくない。

今回、NSCで米国に輸出されることが決まったのは、地対空ミサイルPAC2のシーカー(目標捜索装置)に組み込まれている三菱重工業が生産するジャイロと呼ばれる部品。全長約6センチのこのパーツは、ミサイルが正確な軌道を動くよう姿勢を検知するもので、三菱重工はこの技術を航空機や衛星、船舶の姿勢制御にも用いている。

三菱重工は米防衛大手レイセオンのライセンスを受けて航空自衛隊のPAC2とその部品であるジャイロを生産してきたが、レイセオンによるジャイロ生産は既に終了。米国がPAC2の輸出を続ける中、三菱重工に対し、ジャイロを供給するように要請していた。

国内メディアではあまり報じられていないが、このジャイロの米国への輸出認可をめぐっては、あとさき逆なことが起きた。日本政府が、国家安全保障会議(NSC)を17日に開いてジャイロの米国への輸出を正式決定する前に、米国防総省(ペンタゴン)は14日、総額110億ドル(1兆1000億円)の防衛装備品をカタールに売却することで合意したと発表した。米国にとってこのカタールとの契約は今年最大の案件で、戦闘ヘリ「アパッチ」24機や歩兵携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」500基のほか、三菱重工から調達するジャイロを使ったPAC2も合意内容に含まれてきた。ペンタゴンは、この巨額契約で、米国内に5万4000の雇用が生まれるとも発表した。

日本がジャイロという日本製品の対米輸出をNSCで正式決定する前に、米国がカタールへのPAC2の売却を決めてしまってもいいのか。そもそもNSCは安倍政権が昨年12月、我が国の外交・安全保障に関する最高意思決定機関として鳴り物入りで設置したもので、そこに諮る前に米国に第三国への日本製品の輸出を決められてしまってもいいのか。

日本の事前同意なしで転売可能

この点について、防衛省装備政策課は「新たな防衛装備移転三原則ではライセンス元に部品を納入する場合、第三国への移転に日本の事前同意を義務付けていない」と説明した。そして、その上で、防衛装備移転三原則の二番目、三番目にあたる、仕向先や最終需要者(エンドユーザー)、適正管理について、「本件海外移転の仕向先は米国、最終需要者はPAC2を生産する米国のライセンス元であり、適正管理の確実性は高い」と強調。ジャイロの管理体制は誓約書などの文書で確認ができるとして、今回のNSCによる輸出認可となった、という。

それでは、米国がカタールとの契約を終えた後であっても、万が一、日本のNSCでレイセオンでの適正な管理が確保されないと判断された場合、ジャイロの輸出不許可はできたのか。この点について、外務省安全保障政策課は「(米国とカタールの契約の)あとからでも(日本の判断で)駄目だと言うことができる」と説明した。

しかし、形式的にはともかく現実的にそんなダメ出しをすることができるかどうかについては、疑問が残る。そもそも武器輸出三原則等の見直しの1つの理由として、1990年代半ば以降、「日米同盟の深化」も挙げられてきた。例えば、2009年8月の「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書では、ライセンス生産品の米国への輸出や、輸出品の米国から第三国への移転を可能とすることが、日米同盟の深化につながると述べられている。2011年6月に当時の北沢俊美防衛相が、日米で共同開発中の海上発射方式の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」について、日米以外の欧州を念頭に置いた第三国への移転を容認する方針を示した背景にも、米国側からの要請があった。

最近、防衛問題の勉強会で一緒になった陸上自衛隊の幹部(一等陸佐)は「米国にとって、日本はあくまでもワン・オブ・ゼム(one of them)。アメリカは日本の国内事情などに構っていられないのが実情」と指摘した。

今回、NSCで認可されたもう一つの案件の日英共同研究は、英国中心に仏、独、伊、スペイン、スウェーデンの6カ国が開発中の視界外射程空対空ミサイル(BVRAAM)「ミーティア」が対象。防衛省は、この欧州共同開発の長距離ミサイルを、日本が次期主力戦闘機として42機導入する予定のF35戦闘機に搭載することを検討している。

英防衛大手MBDAのミサイル関連技術に、三菱電機が保有するシーカー技術を組み合わせ、シミュレーションを通じてミサイルの精度を高める技術を共同研究する。

航空機利用者のためのサイトのFlyTeamは22日、「ミーティア自体がMBDAというNATO諸国による国際合弁企業の開発であることから、これも研究成果がイギリス以外へ販売されることが想定されます。ミーティアはグリペン、タイフーン、ラファールが装備する予定で、F-35ライトニングIIへの搭載も期待されています」と報じた。

イスラエルが紛争当事国ではない?

日英共同研究のミサイル技術向上の成果が将来的にF35に生かされる場合、イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続けているイスラエルにも日本のミサイル技術が流出する恐れがある。F35は、米英など9カ国が共同開発中だが、そうした開発参加国に加え、イスラエルやシンガポール、日本、韓国が導入を予定している。最終的には世界各地で3000を超えるF35の導入が見込まれている。

問題は、F35の維持管理においては、すべてのユーザー国を想定したALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)という国際的な後方支援システムを採用していることだ。ALGSでは、ハマスとの戦闘を続け、多くの民間人を犠牲にして批判を浴びているイスラエルもF35ユーザー国の一員であることから、F35の部品などの移転を受けることができる。そもそもALGSの強みは、全てのユーザー国が共通の在庫プールを通じて世界規模で部品などを融通し合うことにある。

ただし、米国もイスラエルもすでに独自の中距離空対空ミサイルを生産しており、F35にミーティアを搭載する可能性は低いとの見方もある。

ハマスとの戦闘を続けるイスラエルだが、日本の防衛装備移転三原則では、「紛争当事国」には当たらない。同三原則は、紛争当事国を「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国」と定めており、現在のところ、地球上には「紛争当事国」は存在しないことになっている。アフガンニスタンに出兵中の米国や英国も紛争当事国にはあたらない。それどころか、アフガンもイラクも、そして、イスラエルも紛争当事国になっていない。イスラエルは中東での米国の最大の同盟国であり、米国の軍事支援を伝統的に受け続けている。米国はかつてPAC2もイスラエルに輸出したこともある。

18日の記者会見で、米国からイスラエルのPAC2の今後の輸出について問われた小野寺防衛相は「これは、今回のPAC2自体の生産国であります米軍が、その判断の中で対応されるということだと思います」と述べるにとどまった。

米国の軍事専門誌「Defense News」が毎年発表する最新の「主要軍需企業売り上げランキング」でも、33位に三菱重工業、44位にNEC、51位に川崎重工業、53位に三菱電機が入り、上位100位以内にコマツまでの9社の日本企業がランクインしている。武器輸出の解禁とともに、こうした企業は今後、上位に入っていくかもしれない。

防衛省によると、自衛隊の海外メーカーとの契約総額のうち、2割がライセンス生産品だという。こうしたライセンス生産品をライセンス元に納入する場合、PAC2の時と同様、第三国への移転をめぐる事前同意が不要となる。

日本にとって、米国から大規模に先端兵器を輸入するという行為はプラス、マイナス両面の効果をもたらしてきた。米国の兵器を輸入することで日本の軍事力は大きく向上する一方、軍事的な対米依存度が逆に高まり、政策の自立度の低下や産業技術基盤の衰退を招いてきた。これは、対米依存が根強い日本の特殊性でもあり、ジレンマとも言える。

今後、米国との間の共同開発がそうであるように、米国以外の、例えば英仏といった欧州諸国と共同開発実行中に相手国が紛争に巻き込まれるような場合、防衛装備移転三原則の成立条件を満たさなくなったとして、日本は果たして離脱できるのであろうか。共同開発参加国のみならず、途中離脱は日本にとっても大きな損害を被ることになるだろう。

また、平和国家としての基本理念を掲げる日本であるが、同盟国の米国は世界戦略の中で防衛装備を運用している。欧州とでも、運用理念の統一は困難を伴うことが予想される。運用面での齟齬(そご)を可能な限り減らすために、日本は、世界最大の武器輸出国である米国に対し、大量殺害や弾圧での使用が予想される銃や戦車など通常兵器の国際取引を規制する初の枠組み「武器貿易条約(ATT)」に早く批准するよう求めるべきだろう。

徹底した情報の詰めが必要

日本の武器輸出の今後の課題について、財団法人ディフェンス・リサーチ・センター(DRC)の上田愛彦理事長は「その国の安全保障環境がどうなっているのか。どの国にどの程度の技術移転をしてもよいのか。武器を売却した場合、どうなるのか。今後は徹底した情報の詰めが必要になる。単に(国という)上からやれ、と言われても、企業現場は責任問題が起きかねないから、なかなか難しい」と指摘する。

上田理事長はその上で、現在、防衛装備の海外移転の可否を判断する部署が内閣官房国家安全保障局、外務省安全保障政策課、経済産業省安全保障貿易管理課、防衛省装備政策課の4つに分かれているが、これを一つに統合し、米国のペンタゴン並みに2000人規模のスタッフを擁する専門部署を日本にも設けるべきだと訴えている。

上田理事長は「ただ、専門部局を設けたとしても、官が主導では最新の技術の話などにはついていけない。官民合同が望ましいなか、6割を民、4割を官からのスタッフで構成すべきだ」と述べた。

兵器のハイテク化が進む中、そもそも「武器」「非武器」だけでなく、軍用品や民生品の線引き自体が難しくなってきている。例えば、日本が誇る電波吸収材は今やステルス戦闘機にさえ使われ、各国が虎視眈々と狙ってきた。数多くの汎用品で「軍」「民」 の垣根が低くなる中、防衛装備移転三原則が形骸化する恐れはあり得る。
posted by Kosuke at 14:53| Comment(6) | 東洋経済

2014年07月04日

北朝鮮の特別調査委員長、ソ・テハ氏とは何者?

北朝鮮の特別調査委員長に就いた徐大河(ソ・テハ)氏の肩書の一つは、国家安全保衛部副部長。国家安全保衛部は、拉致された日本人の管理にも深く関与しており、「ミスターX」こと柳敬(リュ・ギョン)が所属した組織でもある。ソ・テハ氏はその柳敬氏の後継者の一人とみられる。

img_39d996d4b3adab72602bb480171fcacb101414.jpg
7月4日、安倍首相に要望書を手渡す拉致被害者家族(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の特別調査委員長、ソ・テハ氏とは何者?


実は「ミスターX」こと柳敬の後継者の一人

高橋 浩祐 :ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員

2014年07月04日

北朝鮮の特別調査委員長に就いたソ・テハ氏とは何者か。北朝鮮を通じて公表された肩書は、「国防委員会安全担当参事」兼「国家安全保衛部副部長」。国防委員会は北朝鮮の国家最高権力機関、国家安全保衛部は秘密警察にそれぞれあたる。

内外の北朝鮮専門家の間で既に分かっていることは、ソ氏は朝鮮人民軍(KPA)出身。北朝鮮指導者の動向を注視する専門サイト「ノースコリア・リーダーシップ・ウォッチ」を運営するマイケル・マッデン氏は、ソ氏が、2011年に粛清、処刑された柳敬(リュ・ギョン) 国家安全保衛部副部長(当時)の後継者の一人であることを明らかにした。柳氏は2002年の日朝首脳会談で田中均・外務省アジア大洋州局長(当時)の交渉役を務めた「ミスターX」として知られる。

マッデン氏はその上で、国家安全保衛部での「副部長」という肩書がメディア上や外交時での対外的に用いられる役職名に過ぎず、実態が伴っていない可能性も示唆した。また、ソ氏は、他の国家安全保衛部の幹部と同様、ソ氏は朝鮮人民軍参謀本部での階級を有しているが、KPA参謀本部や人民武力部の指揮命令系統には入っていないという。

菅官房長官は3日の記者会見で、ソ氏の国防委員会安全担当参事との役職について、「今回の特別任務のために必要に応じて設置された」と説明。「副大臣級で国の安全保障問題を担当する」と述べた。

ソ氏は70歳前後

ソ氏はそもそも他の重要職を兼務する8人前後からなる国防委員会参事のうちの1人。金正日総書記から金正恩第一書記に引き継がれた、最高幹部からなる「常務組(サンムジョ)」の一人であるともみられている。

こうした常務組の最高指導者の大物側近たちが、日本の拉致問題を調査する特別任務を担う実働部隊を動かすとみられる。常務組は特別のミッションの遂行を担っているため、一般に他の幹部グループからは切り離されている。そして、豊富な人的、金銭的な資源を注ぎ込む強大な権力を有しているとみられている。

日本人の中でソ・テハ氏に会った人物がいる。故・金正日総書記の専属料理人を務めた藤本健二氏だ。藤本氏は4日、私の取材に対し、1995年に平壌の中心街にある迎賓館「木蘭館(モクラングァン)」でソ氏に会ったことを明らかにした。当時のソ氏の役職については「わかるはずがない」と述べた。ソ氏は現在70歳前後であるという。
posted by Kosuke at 23:10| Comment(5) | 東洋経済

2014年07月01日

集団的自衛権、黒幕の米国が考えていること

 東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。集団的自衛権の行使といった施策は、第3次アーミテージレポートの内容に沿って進んできています。米政権は、安倍政権の歴史認識や近隣諸国政策、対米自立の可能性(米国にとっては「危険性」)に確かに警戒感や不信感がありますが、日本に安保負担増をさせようとする方針に変わりはありません。

 そもそも米国のカート・キャンベル前国務次官補やマイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長らいわゆる「ジャパンハンドラー」が公明党の山口代表らと会って、集団的自衛権の閣議決定を早めるために圧力をかけてきたこと自体が尋常ではありませんでした。集団的自衛権の行使容認といった国論を二分するような問題で、それも非常に微妙な時期に、与党幹部に圧力をかけることは完全に内政干渉です。日本メディアも、厳しく批判すべきでした。

BqS7EhJCUAA1kCy.png

 記事を出してしまった後に思ったのですが、日本が軍事的な役割を拡大することで日米安保体制が安定するという歴史的な流れが始まったのは、「1990年代以降から」ではなく、「1980年代以降から」だったかもしれません。1980年代の中曽根政権時代に既に、有事における米軍支援ルートを守るための「1000海里シーレーン防衛」が打ち出されていましたから。少し後悔。。。

 記事の後半部分に日本が米国に主張すべきことをまとめて書きました。


img_da04da9333810886aa4bda89b5d4447a395404.jpg
米国は自衛隊に米軍支援拡大や安保負担の肩代わりを求めている(写真:ロイター/アフロ)

集団的自衛権、黒幕の米国が考えていること

日米安保体制はますます米国の思うまま

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年7月1日

おじいさんやおばあさん、子供たちなど「国民の命を守る責任」を掲げることで、集団的自衛権の行使容認を急いだ安倍晋三首相。日本国内では、これは安倍首相のリーダーシップによって行われた、という認識が強いようだ。

しかし、安倍政権はお釈迦様の手のひらの上にいる孫悟空のようなもの。黒幕は、あくまで米国だ。内実は、日本に対し、米軍支援拡大など軍事的貢献を求める米国からの長年の強い圧力がここにきて強まっていることが背景にある。

米国が日本に対し、一方的に軍事面での支援拡大を求めてくるのならば、それはおかしいと日本は主張すべきだ。シリアやクリミア問題をめぐって、米国の覇権力の低下や弱腰姿勢が指摘されるオバマ政権だが、今後も世界で指導的な役割を続けていくことを表明している。しかし、巨大な軍事力を支えてきた屋台骨の米国の財政事情は火の車。現在、国家予算全体の2割を占める国防費を今後10年間で約1兆ドル(約100兆円)も削減することが義務付けられている(2011年成立の米予算管理法)。

米国は「集団行動」を強調

それでは、財政難にあえぐ米国は、どのようにして米主導の国際秩序を保っていくつもりなのか。オバマ大統領の5月末の米陸軍士官学校(ウエストポイント)での演説や、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)の6月11日の講演では、それを読み解くキーワードが何度も登場した。それは、「集団行動」(collective action)だ。

米国一極主義ではなく、同盟国や友好国を結集して、国際協調主義の下で「集団行動」をとっていくことをオバマ政権は表明している。そして、そのために、北大西洋条約機構(NATO)や日本など世界中の同盟国に安全保障面でのさらなる負担を求めている。つまり、米国はもう単独では国際秩序を維持できないということを白旗を上げて認めている。

同盟国を動員するこの「集団行動」のやり方は、第二次世界大戦後に同盟国と築き上げてきた「過去の遺産」を活用してやり繰りしようとしている側面もある。米国は自国の安全保障に直接影響を与えないような国際紛争については、後方支援に回った2011年のリビア空爆時のように、今後もNATOなど各地域の同盟国に問題の対処を徐々にアウトソーシングしていくとみられる。尖閣問題もその範疇に入るだろう。

1970年代から続く「安保ただ乗り論」

安全保障面で日本に応分の負担をさせようとするのは、何も今に始まった話ではない。

米国は1970年代、ベトナム戦争で多くの犠牲を出して敗戦、国力が疲弊した。そんな中、日本は著しい経済成長を遂げて世界第2位の経済大国として台頭。日本の対米貿易黒字が大きくなると、「日本は安保にただ乗りしている」という日本フリーライダー論や日本アンフェア論が米国議会を中心に出てくるようになった。つまり、「米国が共産主義と戦ってきたなか、日本はアンフェアに金稼ぎに勤しんできた」と。

そして、冷戦の終結に伴い、イラクなどの「ならず者国家」が出没した。米国の要請の下、日本も専守防衛の域を事実上超え、1990年代以降、自衛隊の海外派遣に踏み切った。湾岸戦争終結後の海上自衛隊掃海部隊のペルシャ湾派遣(1991年)を皮切りに、イラクへの自衛隊の派遣(2003〜2009年)、インド洋での給油活動(2001〜2010年)につながっていった。

このように1990年代以降は、日本が軍事的な役割を拡大することで日米安保体制が安定するという歴史的な流れが続いている。集団的自衛権の論議もこの流れに沿っている。米国の強い圧力の下、実は、集団的自衛権の必要性に触れた有識者懇談会報告はすでに5回も出ている。最初が小泉内閣時代の2004年の「安保防衛懇」報告、次に2008年の第一次安倍政権下での「安保法制懇」報告、3度目が麻生政権時代の「安保防衛懇」報告、4度目が鳩山由紀夫−菅直人政権下の「新安保懇」報告。そして、直近の第二次安倍政権下での「新安保法制懇」報告だ。

集団的自衛権論議が続く中、「米国は日本を守るが、日本が米国を守らないのはおかしい」といった日本に対する安保ただ乗り論は今も盛んに米国から発せられている。最近、筆者が目にした主な意見をいくつか紹介してみよう。

「従来の憲法解釈では、日本の護衛艦が攻撃されたら米国は守るが、米国の艦船が攻撃されても日本は対処できない。日本が、北朝鮮から米ハワイなどに向かう弾道ミサイルを迎撃せずに無視するなら、米国民は『本当に同盟国なのか』と思うのではないか。」(6月6日付の朝日新聞記事でのケビン・メア氏=元米国務省日本部長の発言)

「ワシントンは1951年以来、東京と相互的な安全保障条約を結んできた。しかし、日本は米国や米軍を守ることにコミットしていない。事実、日本軍は戦時であってもワシントンを支援することを禁じられている。たとえその戦争が日本の防衛のためであってもだ」(6月2日付のロイター通信のオピニオン記事での米国経済戦略研究所のクライド・プレストウィッツ所長の発言)

元海兵隊大佐が語る日本への不満

日本戦略研究フォーラムのグラント・ニューシャム上席研究員(元米海兵隊大佐)は私の取材に対し、痛烈に日本に不満をぶつけた。米国の本音が垣間見えているため、少し長くなるが、同氏のコメントを紹介する。

「日本がわずかな不動産と少額な資金を提供することで得ているものを考えてみてほしい。日本を防衛するという(米国による)約束とともに、日本は(米軍という)世界最強の軍事力のサービスを受けている。これは、どんな国もかつて受けたことがないほどの『最良』の取引だ。私は日本がこのことをきちんと認識しているかどうかが分からない」

「ロンドンのロイズ(保険市場)に電話をして、このような保険について聞いてみてほしい。彼らは一通り笑い終えた後に、毎年約1000億ドル(10兆円)ほどの保険の見積価格を提示するだろう。これこそが日本が過去60年間、毎年享受してきた『防衛保険』の額なのだ。これだけの金額を日本政府は他のことに費やすことができたのだ」

「人々は日本の思いやり予算、つまり、ホスト・ネーション・サポート(接受国支援)が何百億ドルだと思っているかもしれない。しかし、実際はあきれるほどに少ない。せいぜい多くて50億ドル(5000億円)だ。日本の公共事業プロジェクトでの不正行為の額と同額程度だ。この額で日本は何を得ているのか。日本を守る米軍だ。全然悪い取引ではない」

「この種のアンバランスな関係はいつまでも続くものではない。日本は自らの防衛面でもっとやり始めるべきだ。それは、より対等な同盟国にもつながる」

「日本と米国のそれぞれの選択肢(オプション)を誰もめったに考えようとしないのは、驚くべきことである。日本は実際、米国以外にまともな同盟国を持っていない。核兵器に絡む選択肢も確実に有していない。日本は米国以外に同盟国がおらず、他に真の友人もいない。それでも、日本政府はしばしば良い選択肢があるかのように振る舞っている。米国は日本にある基地から相当な恩恵を受けている。それらはとても有益だが、代わりがきかないものではない。米国は常に別の国とうまくやっていける。米国はカムラン湾やフィリピンなど一つの場所で基地を失っても、他の場所で基地を開設できる機会を有している」

「日本が米国に便宜を図っているという考えはナンセンスだ。日本は防衛協力から何を得ているか直視すべきだ。米国は日本に代わって犠牲を強いられていることを認識している。日本はそのことを理解すれば上手くいくだろう。米国人に『ありがとう』と言うことがとても役に立つことだろう」

少し長くなったが、上記のニューシャム氏のコメントを読んで反感を持った日本の読者もきっと多かっただろう。日本は公表ベースでは2014年度6711億円もの在日米軍駐留関連経費を支出している。

日本に向けられるこうした安保ただ乗り論に対し、日本はどう反論したらよいのか。

ワシントンの軍関係者の中でよく使われる言葉に、「ティラニー・オブ・ディスタンス(Tyranny of distance、距離の過酷さ)」がある。この言葉を理解しておくと、米軍にとっての沖縄や横須賀をはじめとする在日米軍基地の戦略的・地理的価値がよく分かる。

このフレーズは遠距離恋愛のつらさを言う場合にも使われるが、米軍の世界戦略を論じる際、昔からよく米軍関係者の間で使われてきた言葉だ。しかし、日本では全然、使われていない。記事データベースの日経テレコン21で、過去記事を検索しても、一件もヒットしない。つまり、日本国内ではあまり意識されていない概念だ。

日米安保に伴う米軍のコスト削減効果は莫大

ティラニー・オブ・ディスタンスの意味はこうだ。

米国から見た場合、日本は太平洋を越えた反対側にある。米国の西海岸から西太平洋の日本までは、地球の地表の50%以上を占め、16個のタイムゾーン(時間帯)をまたぐ。航空機でも片道十数時間、船では平均航行速度15ノット(約28キロ/時)で約2週間かかる。

この広大な太平洋を渡る距離、船で片道2週間という時間を、米国は日本に米軍を置くことで節約できる。1日およそ100万ドル(約1億円)とされる空母の運用経費だが、横須賀を母港にとどめておけば、空母だけでも、太平洋横断経費の片道1400万ドル、往復で2800万ドルを節約できる。いちいち米西海岸のサンディエゴ海軍基地から空母を派遣しなくても済むのだ。

img_2.jpg

つまり、米国は在日米軍をきっちり維持することによって、中東と東アジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)での有事の際、米国の陸軍も海軍も空軍も海兵隊も、時間や金、人員輸送を大幅に節約できる。そして、平時の際でも、アジア・太平洋でのアメリカの覇権を維持する軍事プレゼンスを保つことができる。米海兵隊が特に沖縄に駐留している価値について、沖縄の第3海兵師団の大隊長を務めたR・K・ドブソン中佐は、かつて以下のように述べた。

「東アジア・太平洋地域において、どこにでも航空機と海上輸送力を使って迅速に派遣できることにあり、沖縄の戦略的位置は、対応所要時間を減らし、米本土からの増援軍と、補給物資の輸送に必要な限定された戦略航空・海上輸送能力の規模が小さくすむようにさせている」

つまり、ティラニー・オブ・ディスタンスを克服するためにも、米国は沖縄や横須賀、佐世保などの在日米軍基地にこだわっている訳だ。

前出のニューシャム氏のような論客には、上記のような反論が可能だろう。つまり、「日米安保は片務的だ」というのであれば、日本は米国に対して既に戦略的に重要で広大な基地を貸している。これも片務的なものだ。もし本当に双務的な安保体制にするならば、嘉手納の見返りとしてグアムのアンダーセン空軍基地、横須賀 や佐世保の見返りとしてハワイのパールハーバーやサンディエゴを貸してくれ、と日本は主張すべきだ。

img_1.jpg

外国の軍隊を置くことの重い意味

外国の軍隊が自国に存在する、という国家の独立心に関わる問題も忘れてはならない。これも日本が支払っている大きな負担だ。

ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの先輩記者、故・江畑謙介氏も以前、著書に記していたが、基本的にいえば、どんな国にも外国の軍隊と基地があるのは好ましくないものだ。軍隊と言うのは、国権を発動する一国の武力行使組織。そんな外国の軍隊と基地を自国内に受け入れた場合、自国の国家主権の制限や侵害の事態を生み、必ずトラブルの元になるからだ。古今東西、自国の地に外国部隊が拠点を設けた時の強い反発はいろいろな場所で見られてきた。安倍首相が本当にナショナリストであるならば、集団的自衛権の行使容認の後、米国優位・日本劣位の状況を克服するため、在日米軍基地の縮小を目指すべきだ。

日本は年末にまとまる日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定に集団的自衛権の行使容認を反映させる方針だ。そして、改定ガイドラインでは米国の要求通りに、アジア太平洋を中心とする地域での安全保障の負担増を受け入れいく構えだ。しかし、「集団行動」の大義名分の下、米国からの軍事的な役割の拡大がますます求められることが予想される中、日本政府は納税者である国民の理解や国益を踏まえて、米国との交渉でやり合えるだろうか。

集団的自衛権の論議は確かに日本と米国が真の意味で対等の立場で協力していくためにはどうすればいいのか、を問うている。しかし、今は、日本側が言うべきことを言い、安保負担をめぐる国内世論と米国との認識ギャップを縮める努力をすることが急務のように思える。
posted by Kosuke at 13:01| Comment(4) | 東洋経済