2014年09月01日

「ブラック企業」は、人種差別用語である

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。なぜ「ブラック企業」と呼ぶのでしょうか?「違法企業」「従業員酷使企業」「労働搾取企業」「労働犯罪企業」、あるいは、「長時間労働や残業代の未払いで従業員を酷使し、使い捨てにする企業」等とでも呼べばいいのではないでしょうか?内外の友人たちと意見を交わし、常々思っていたことを東洋経済オンラインへの最新の拙稿に記しました。

「黒」を使った言葉の全部を廃止せよ、とは言っていません。言葉はもちろん、日本の歴史や文化、社会、風習に根差して生まれた背景もあり、そんなことは到底不可能です。そして、どの言葉が許容範囲で、どの言葉が許容範囲でないのか、との判断は一刀両断には言えず、とても難しいと思っています。しかし、社会や経済などで時代の変化もあり、その言葉によって傷ついたり不快に思われたりする方が出てきて、代わりに使える良い言葉があるのであれば、わざわざ色を使った表現を用いる必要がないのでは、と思っています。ニュースルームに居て少し悩むことがあったら、個別の事案ごとにみんなで少し相談したり、話し合ったりして気をつけていけばいいのではないか、と思っています。

記事中に「人種のるつぼ、米国」と書きましたが、ある読者から、

「『人種のるつぼ、米国』より『人種のサラダボウル、米国』が適切。『るつぼ』は『溶かして同化させる』というイメージだが、『サラダボウル』は『素材をそのままにして、共存させる』というイメージ」

とのご指摘を受けました。私が小中学生の頃は「人種のるつぼ」と習った記憶がありますが、これも時代の変化とともに許されなくなった表現でしょう。ご指摘ありがとうございました。こうした点、直さずにオリジナルの原稿のまま、下記に掲載しました。ネット上での私の記事に対するご意見やご批判は大切な意見として捉えております。フィードバック、誠にありがとうございます。日本語ツィッター( @KosukeGoto2013 )上では、小生の元に来た賛否両論の意見をそのまま手を加えずに流しました。フォロアーの方の考える機会や材料になれば、と思っています。


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米ミズーリ州セントルイス市内で8月25日に行われた葬儀で、警察官に射殺されたマイケル・ブラウンさん(18)を追悼する人々(写真:代表撮影/AP/アフロ)

「ブラック企業」は、人種差別用語である

言葉の使い方に鈍感すぎる国内メディア

高橋 浩祐 :ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員  2014年09月01日

日本国内では、長時間労働や残業代の未払いで従業員を酷使し、使い捨てにする企業のことを長らく「ブラック企業」と呼んでいる。これに対し、従業員を大切にする優しい企業のことを「ホワイト企業」と呼んでいる。

「ブラック企業」は昨年の「新語・流行語大賞」トップテンにも選ばれ、日本メディアでも当たり前のように使われている。ネットでは連日のごとく「ブラック企業」絡みの記事が報じられている。しかし、私はこの「ブラック企業」という言葉を以前からずっと「人種差別用語」、あるいはそれに類する言葉だと思ってきた。この言葉を耳にする度に、「ああまた、人種差別用語が使われている」と心を痛めてきた。使ってはいけない言葉だと思っている。東洋経済オンラインにはこれまで軍事や外交、政治問題を書いてきた身ではあるが、今回、この問題について書く機会を得られたので、思うところを記したい。

色で価値判断するのはタブー

従業員を酷使する企業を「ブラック企業」、従業員を大切にする企業を「ホワイト企業」と呼ぶ背景には、「黒が悪いもの」「白が良いもの」との価値判断が前提となっている。つまり、「黒は汚れてきたないもの」「白は綺麗で純粋」といった価値判断が働いている。圧倒的多数の人々はきっと無意識のうちにそう思い、なんの抵抗もなく「ブラック企業」という言葉を使っているのだろう。

しかし、日本で暮らす「有色人種」の外国人は増え続けている。日本人の圧倒的多数も「黄色」という有色人種である。「色の有無」「色の是非」で価値判断を下す表現を使うことは、人々が無意識のうちに、肌の色が、有色かあるいは白色かで優劣をつける社会を育んでしまう危険性がある。「白人が上」「黒人が下」との概念を社会に植え付けたり、助長したりしかねない。これは道徳的に問題がある。英語でいう、politically incorrect(言葉や見解などが不適切で偏見的)の部類に入る。

人種のるつぼ、米国ではこうした偏見をなくすために、長年、Black(黒人)という表現よりも、Afro-American(アフリカ系アメリカ人)という表現がpolitically correct(公正で道徳的に正しい)とみなされて使われている。もちろん、米国の有名なラッパー、ジェイ・Z(妻は歌手ビヨンセ)のように、自らをBlackと呼ぶ人々も少なくない。しかし、米国では既にAfro-Americanという表現のほうが公の場では、より一般的になっている。

BlackとWhiteという言葉の意味について、考えさせられる良い映画がある。今の若い人にはあまり知られずに観られていないだろうが、1992年に米国で公開された映画『マルコムX』だ。1960年代の米国でキング牧師と並び、アフリカ系アメリカ人への人種差別撤廃運動の指導者として名を馳せた実在の人物、マルコムXの生涯を描いた映画だ。アカデミー主演男優賞受賞の名優、デンゼル・ワシントンが演じる名作。まだ鑑賞していない読者、特に若者にはレンタルビデオ屋で借りて観ていただきたい映画だ。

辞典に書かれていること

この映画の中で強烈なインパクトを放つシーンがある。マルコムXが刑務所の図書室の中で、同じ受刑者のベインズと、ウェブスターズ・カレッジエイト辞典を引き、それを読みながら、会話する場面だ。以下、その場面の会話を紹介する。

ベインズ: 黒 ― 光の欠如した状態。色彩のないこと。暗黒で、『未来は暗黒』のような形容に使われる

マルコムX: 君は言葉に強いな

ベインズ: (黒は)汚れていて、不潔、陰気、敵意。『暗黒の日(ブラックデー)』のような形容もある。極悪とか残酷さを連想させる言葉。恥、不名誉、過失等を暗示する。脅迫(ブラックメール)、除名(ブラックボール)、不良(ブラックガード)。

マルコムX: これはひどいな。

ベインズ: 次に白を見てみよう。ここを読んでくれ。

マルコムX:白 ― 汚れのない雪の色。あらゆる色彩の原点。黒の反対。けがれのない状態。無垢(むく)、純粋、悪意のないことの象徴、無害、正直、公正、名誉。。。これを書いたのは白人だな?白人だろ?

ベインズ:白人だよ。

今、日本でブラック企業という言葉を使って、記事を書いたりしているのはどのような人なのだろう。もし仮に自分がアフリカ系アメリカ人だったり、家族にアフリカ系アメリカ人がいたりすれば、ブラック企業という言葉を書いたり、使ったりすることに少しはためらうのではないか。

実は筆者の妹は、スリランカ人の男性と結婚した。将来、甥っ子や姪っ子が生まれた時は、一般的な日本人より、肌の色が濃い子供となる。「ブラック」や「ホワイト」という言葉を、当たり前のごとく蔑称や称賛の脈略で使っている社会に生まれる子供の未来を個人的にも案じてしまう。

確かに、日本でも昔から犯罪容疑者が犯罪の事実がありと判断する時を「黒」、事実がない場合を「白」と言うなど、黒と白に善悪の価値をつけているのは事実だ。しかし、既に日本は急速な少子高齢化社会に突入し、外国人労働者に頼らざるを得なくなっている。多民族社会に入るなか、「ブラック」や「ホワイト」といった色の有無を善悪の基準にいつまでも平然と使っているのはいかがなものか。

スリランカ人の義理の弟は以前、道端で、通りすがりの中年男性からいきなり「黒んぼ!」と言われ、しばらく落ち込んでいた時期があった。

米国における根深い人種問題

「私には夢があります。いつの日にかこの国が、私の4人の子どもたちが、肌の色でではなく、その人となりで評価されるようになるという夢です」

マルコムXと同年代の米国を代表するアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者、キング牧師は1963年8月28日、リンカーン記念堂の前で行った有名な演説「I Have a Dream(私には夢がある)」でこう訴えた。しかし、それから51年後の今日、米中西部ミズーリ州セントルイス近郊のファーガソンでは、銃を持たないアフリカ系アメリカ人の青年が警察官に射殺される事件が発生、米国社会の根深い人種問題が改めて浮き彫りになっている。

一方、太平洋の反対側の日本では、既に大勢の外国人が既に共存する社会になっているにもかかわらず、メディアが「白人」「黒人」「ブラック企業」「ホワイト企業」と書き、アフリカ系アメリカ人の書かれる側の気持ちを十分に忖度(そんたく)しているようには思われない。

実は日本メディアが使う言葉で、気になるものはまだある。「極東」という言葉だ。筆者が働くジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーは、極東(Far East)という言葉はpolitically incorrectだとして、すべて「アジア太平洋地域(the Asia-Pacific region)」と置き換えて表現している。欧米メディアでは以前は西欧中心の世界観で、日本の存在する地域を「極東」と呼んでいたが、既に使わなくなっている。関東地方でAM810ヘルツで流れている英語放送のラジオAFN(American Forces Network、米軍放送網)も、かつてはFEN (Far East Network 、極東放送網)と呼ばれていたが、1997年からそれをやめ、AFNが正式名称となった。

言葉は言論の自由を守る武器にもなるが、時に人権を脅かす凶器にもなる。もろ刃の剣だ。言葉狩りになってはいけないが、言葉の野放図にもなってはいけない。言論に携わる者として、おのおのの言葉が持つセンシティビティー(感覚の鋭さ)には常々十分に配慮し、気を付けていかなければならないと自戒している。
posted by Kosuke at 08:53| Comment(10) | 東洋経済

2014年07月31日

対中強硬策、「南シナ海日米共同監視」浮上

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。

中国をけん制するために南シナ海で日米が共同監視活動を実施する可能性が浮上しています。アーミテージ元米国務副長官らが日本に南シナ海での日米共同監視の実施を求めています。

言うまでもなく、南シナ海は日本にとって極めて重要なシーレーン(海上交通路)です。中東からの原油といったエネルギー資源を含め、日本に供給される物資の88%が南シナ海を通って日本に輸送されています。南シナ海の平和と安定が保たれ、無害通航権(沿岸国の平和・秩序・安全を害しない限りにおいて、外国船舶の領海内の航行が保障される権利)が南シナ海で確保されることは、日本にとってはバイタルインタレスト(死活的利益)、アメリカとも利益が共通しています。

ただし、この海上で日米共同監視活動を行うようになれば、中国の強い反発が必至です。


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南シナ海に展開する中国の 沿岸警備艇(2014年7月撮影、ロイター/アフロ) 。日米がこの海域を共同監視するようになる可能性が高く、その場合、中国からの猛反発が予想される

対中強硬策、「南シナ海日米共同監視」浮上

"ジャパン・ハンドラー"が突き動かす安倍政権

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 2014年7月31日

国論が二分するなか、集団的自衛権の行使容認を決めた安倍政権。拙速な閣議決定や国会運営への国民の批判が高まり、新聞やテレビの世論調査では内閣支持率が軒並み40%台に落ち込んだ。

しかし、それに反比例するかのごとく、日本の同盟国、米国での安倍首相の株はぐっと上がった。米政府は、日本の決定が日米の同盟強化につながるとして、歓迎の意向を示した。米国の本音としては、国防予算が削減されて自らの余力がなくなってきているなか、中東やウクライナ等で新たな問題が次々と勃発、日本にアジア太平洋地域を中心に安保負担をもっと担わせ、自らは負担減を図りたい意向がある。米国にしてみれば、安倍首相はそうした米国の期待に応えてくれた。

それでは、米国は日本の集団的自衛権の行使容認で、今後、具体的に日本にどのような行動を求めてくるのだろうか。その一つとして、年末までに見直される予定の日米防衛協力指針(ガイドライン)の中で、南シナ海での日米共同監視活動の実施を求めてくることが予想される。それを予兆させるのが、日米の安保外交政策を主導してきたジャパン・ハンドラー(日本を操る人)と呼ばれる米国の国務省や国防省の元役人たちの意向だ。


ジャパン・ハンドラーが安倍首相に「謝意」

日本の集団的自衛権の行使容認を誰よりも喜んでいるのは、米政府よりも、そうしたジャパン・ハンドラーたちだ。7月24日付の読売新聞の記事によると、リチャード・アーミテージ元米国務副長官やジョセフ・ナイ・ハーバード大教授らは、7月15日に首相官邸を訪ね、今回の閣議決定について安倍首相に「謝意を伝えた」という。このことは何を意味するのか。安倍首相は集団的自衛権の行使について「国民の命や暮らしを守る」ことを前面に掲げて訴えてきたが、もともと米国から謝意を伝えられるような施策だったということだ。

こうしたジャパン・ハンドラーたちは、謝意を伝えるばかりではない。自らが目指す施策遂行に向けて行動を起こしてきた。カート・キャンベル前国務次官補(東アジア・太平洋担当)やマイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は6月2日、集団的自衛権の行使容認に難色を示していた公明党の山口那津男代表と極秘に会談。そして、日米ガイドラインの年内改定に間に合うよう、閣議決定を早めるために圧力をかけた。日本の国内メディアではほとんど批判が起きなかったが、国論を真っ二つにするような国内問題をめぐって、米側がこのように与党幹部に圧力をかけることは、完全に内政干渉だ。


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7月14日、都内でリチャード・アーミテージ元米国務副長官、ジョセフ・ナイ・ハーバード大教授、マイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、ジョン・ハムレ戦略国際問題研究所(CSIS)所長、デニス・ブレア元国家情報長官らジャパン・ハンドラーたちが一堂に会する記者会見が行われた

7月14日にはアーミテージ氏やナイ氏、グリーン氏に加え、ジョン・ハムレ戦略国際問題研究所(CSIS)所長やデニス・ブレア元国家情報長官らジャパン・ハンドラーたちが一堂に会する記者会見が東京であった。笹川平和財団が主催する「日米安全保障研究会」の中間報告の場に彼らが集ったのだ。会場のホテルオークラ東京には、筆者を含め、約70人の内外の記者や撮影クルーが取材に来ていた。

笹川平和財団といえば、戦前は右翼政治家で、戦後は一時、A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに拘留された故・笹川良一氏が創立した財団法人日本船舶振興会(現・日本財団)の下部組織。笹川平和財団という日本最大級の公益財団法人が、米国の対日政策の重鎮たちをもてなしている姿は、日本の中枢を支配する保守層が今も米国頼みを続けている戦後の構図を如実に映し出している。なお、日本財団の下部組織には、米有力シンクタンクのCSISと協力関係にある東京財団も含まれている。

アーミテージ氏はその14日の記者会見で、日本の集団的自衛権の行使容認で、自衛隊の米艦防護や国連平和維持活動(PKO)での駆け付け警護が可能になると述べ、日本の決定を高く評価した。「"We are actually thrilled.(私たちは本当に興奮している、喜んでいる)」という感情的な表現さえも用いて、安倍内閣の閣議決定を称えた。

CSISの幹部であるハムレ氏やグリーン氏らは16日、麻生財務相や自民党の岩屋毅安全保障調査会長らとも会合を持ち、意見交換した。


アーミテージ・リポートが指摘していたこと

日本の集団的自衛権の行使容認は、もともとアーミテージ氏が2000年10月に発表した「アーミテージ・リポート」の中で求められていた。同リポートは「日米同盟を米英関係のように強化すべきだ」と主張、集団的自衛権の行使禁止によって日米の同盟協力が制約を受けている、と指摘していた。共著者として、前述のナイ氏やグリーン氏、キャンベル氏らおなじみの知日派が加わっていた。

このリポートを発表した直後の2001年4月に発足した小泉内閣は、集団的自衛権の行使容認には至らなかったが、その行使容認の必要性に触れた「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書を2004年に出している。そして、小泉内閣時代は、日本が「極東の英国」とも呼ばれるほど、日米同盟が蜜月化するに至った。

アーミテージ・リポートはその後も続編が発表され、2012年8月には「アジアの安定を支える日米同盟」と題した第3次リポートが出されている。日本の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加や原発の再稼働をはじめ、日本の集団的自衛権の行使容認や自衛隊の海兵隊機能の強化等は、すべてこの第3次アーミテージ・リポートの中で求められ、現実はそれに沿った形で進んできている。しかし、同リポートで日本側に求められている、対イラン有事の際のホルムズ海峡への海上自衛隊の掃海艇派遣や、南シナ海での「航行の自由」を確立するための日米共同監視活動等はまだ実行されていない。


焦点は、南シナ海での日米共同監視

このため、年末までにとりまとめが予定されている日米ガイドラインでは、こうした南シナ海での日米共同監視が盛り込まれるのではないか、とみられる。14日の記者会見でも、アーミテージ氏は、日本の集団的自衛権の行使容認によって、シーレーン(海上交通路)の安全確保などで、日本がより大きな役割を果たせるとの期待を改めて示した。

日本側にもそうした日本の役割拡大が必至との見方が広がっている。森本敏前防衛相は25日未明に放送された「朝まで生テレビ!」の中で、「米国は日本の集団的自衛権の行使を歓迎しているが、これは実際にそうした(同行使の)蓋然性よりも、(日本は)この概念の下で米国の活動に対する支援を広範囲にいろいろな分野でできる」ことを指摘。その具体的な例として、「今までは周辺事態法での公海上における米艦船への輸送だけだったが、それ以外の支援活動もできる。つまり、平時、有事、緊急時をかねて、米国の活動に非常にグローバルに日本が支援活動、実際は後方支援活動ができるようになる」と述べた。

その上で、日本政府が、国の安全について現行法では十分対処できない可能性があるとして例示した15事例のうち、「侵略行為に対抗するための国際協力としての支援」の事例の重要性を森本氏は強調した。「侵略行為に対抗するための国際協力としての支援というのは、補給、輸送だけでなく、例えば哨戒活動、警戒監視、空中給油、早期警戒用の活動もそうだ。武力の行使に至らない米国に対する支援活動となる」と述べた。

また、新たな日米ガイドラインでは南シナ海を含むシーレーン防衛の重要性が強調され、P3C哨戒機等による南シナ海での日米共同監視が盛り込まれるのではないか、との見方について、民主党の長島昭久元防衛副大臣は29日、筆者の取材に対し、「民主党政権下で『動的防衛力』を構想した当初から、南シナ海に加え、第一列島線と第二列島線の間のTGT(東京・グアム・台北)トライアングルと呼ばれる広大な海域における日米共同警戒監視も視野に入れている」と述べ、その可能性を認めた。

それでは、南シナ海での日米共同監視活動について現場の自衛隊はどう思っているのか。河野克俊・海上幕僚長は29日の定例記者会見で、筆者の質問に対し、「それについてはまだ答える段階ではない」「まだ具体的にそのような話が出ているとは承知していない。ガイドラインの中にそれが盛り込まれるのかについては、まだ協議が始まっていないので何とも言えない」と述べた。

ただし、海上自衛隊が南シナ海での日米共同監視活動ができる能力を有しているかどうかについては、「能力的にはできると思う。常日頃、日米の連携はとっているので、それは可能だと思っている」と言い切った。安保政策見直しで政府が示した15事例の中では、こうした「民間船舶の国際共同護衛」も盛り込まれている。

南シナ海で海上自衛隊が米軍と共同で監視活動に踏み切るとなれば、同海上での実効支配の動きを強めている中国を大きくけん制するものとなる。そして、中国の強い反発は必至だ。アーミテージ氏やグリーン氏のように、米共和党寄りの勢力にとっては、望ましい施策になるかもしれないが、対中協調路線を模索するハト派のオバマ政権にとっては必ずしも歓迎されないかもしれない。しかし、現状は、安倍政権がオバマ政権の外にいるジャパン・ハンドラーたちの影響を大きく受けていることから、南シナ海での日米共同監視活動に向かう可能性は大いにある。
posted by Kosuke at 13:35| Comment(19) | 東洋経済

2014年07月26日

防衛装備移転三原則に形骸化の恐れ

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防衛装備移転三原則に大きな抜け穴

初めての2事例を検証すると問題だらけ

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年7月25日

日本が購入するF35戦闘機に搭載するミサイル技術を日英で共同研究することになった(写真:U.S. Navy/アフロ)

日本政府は7月17日、国家安全保障会議(NSC)の閣僚会合を開き、迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の部品の米国への輸出と、F35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究を認めた。日本の武器と関連技術の海外移転を原則として禁じてきた長年の禁輸政策を転換して、4月に定めた「防衛装備移転三原則」の下で初めてとなる2事例だ。

こうした武器の輸出解禁と国際共同開発は、日本の防衛企業の海外市場進出への足掛かりになるものだ。輸出による量産効果で自国での生産・開発コストを押し下げ、生産力や研究生産基盤を維持できるメリットがある。また、他国の高度な技術を吸収し、開発リスクの分散化も図れる。軍備のハイテク化で兵器価格が高騰するなか、社会保障費等の増大で財政難の日本にとっては、とりわけ兵器の調達コストを削減することが急務になっている。

防衛装備移転三原則とは?

4月に新たに定められた「防衛装備移転三原則」は以下の3つになっている。(1)紛争当時国や国際条約違反国など移転を禁止する場合の明確化、(2)平和貢献や我が国の安全保障に資する場合など移転を認め得る場合の限定と厳格審査、(3)目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保、だ。

しかし、こうした「防衛装備移転三原則」を今後もどこまできっちりと厳格に適用し、紛争当事国への流出を防止できるのかなど、課題も多い。特に日本は唯一最大の同盟国、米国の対外武器輸出の動向に左右され、敏感にならざるを得ない。米国は特別扱いとなっており、日本がなかなか歯止めをかけられないのが実情だ。そして、十分な人員体制と情報収集力を確保した専門部局による的確な判断や管理体制がなければ、いかに日本企業が独自の先端技術や製品を有していても、企業現場では海外進出にいつまでも二の足を踏む事態が予想される。今のところ、1987年の東芝機械ココム違反事件のような事態を恐れ、防衛装備品の輸出にはいまだおっかなびっくりの日本企業が少なくない。

今回、NSCで米国に輸出されることが決まったのは、地対空ミサイルPAC2のシーカー(目標捜索装置)に組み込まれている三菱重工業が生産するジャイロと呼ばれる部品。全長約6センチのこのパーツは、ミサイルが正確な軌道を動くよう姿勢を検知するもので、三菱重工はこの技術を航空機や衛星、船舶の姿勢制御にも用いている。

三菱重工は米防衛大手レイセオンのライセンスを受けて航空自衛隊のPAC2とその部品であるジャイロを生産してきたが、レイセオンによるジャイロ生産は既に終了。米国がPAC2の輸出を続ける中、三菱重工に対し、ジャイロを供給するように要請していた。

国内メディアではあまり報じられていないが、このジャイロの米国への輸出認可をめぐっては、あとさき逆なことが起きた。日本政府が、国家安全保障会議(NSC)を17日に開いてジャイロの米国への輸出を正式決定する前に、米国防総省(ペンタゴン)は14日、総額110億ドル(1兆1000億円)の防衛装備品をカタールに売却することで合意したと発表した。米国にとってこのカタールとの契約は今年最大の案件で、戦闘ヘリ「アパッチ」24機や歩兵携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」500基のほか、三菱重工から調達するジャイロを使ったPAC2も合意内容に含まれてきた。ペンタゴンは、この巨額契約で、米国内に5万4000の雇用が生まれるとも発表した。

日本がジャイロという日本製品の対米輸出をNSCで正式決定する前に、米国がカタールへのPAC2の売却を決めてしまってもいいのか。そもそもNSCは安倍政権が昨年12月、我が国の外交・安全保障に関する最高意思決定機関として鳴り物入りで設置したもので、そこに諮る前に米国に第三国への日本製品の輸出を決められてしまってもいいのか。

日本の事前同意なしで転売可能

この点について、防衛省装備政策課は「新たな防衛装備移転三原則ではライセンス元に部品を納入する場合、第三国への移転に日本の事前同意を義務付けていない」と説明した。そして、その上で、防衛装備移転三原則の二番目、三番目にあたる、仕向先や最終需要者(エンドユーザー)、適正管理について、「本件海外移転の仕向先は米国、最終需要者はPAC2を生産する米国のライセンス元であり、適正管理の確実性は高い」と強調。ジャイロの管理体制は誓約書などの文書で確認ができるとして、今回のNSCによる輸出認可となった、という。

それでは、米国がカタールとの契約を終えた後であっても、万が一、日本のNSCでレイセオンでの適正な管理が確保されないと判断された場合、ジャイロの輸出不許可はできたのか。この点について、外務省安全保障政策課は「(米国とカタールの契約の)あとからでも(日本の判断で)駄目だと言うことができる」と説明した。

しかし、形式的にはともかく現実的にそんなダメ出しをすることができるかどうかについては、疑問が残る。そもそも武器輸出三原則等の見直しの1つの理由として、1990年代半ば以降、「日米同盟の深化」も挙げられてきた。例えば、2009年8月の「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書では、ライセンス生産品の米国への輸出や、輸出品の米国から第三国への移転を可能とすることが、日米同盟の深化につながると述べられている。2011年6月に当時の北沢俊美防衛相が、日米で共同開発中の海上発射方式の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」について、日米以外の欧州を念頭に置いた第三国への移転を容認する方針を示した背景にも、米国側からの要請があった。

最近、防衛問題の勉強会で一緒になった陸上自衛隊の幹部(一等陸佐)は「米国にとって、日本はあくまでもワン・オブ・ゼム(one of them)。アメリカは日本の国内事情などに構っていられないのが実情」と指摘した。

今回、NSCで認可されたもう一つの案件の日英共同研究は、英国中心に仏、独、伊、スペイン、スウェーデンの6カ国が開発中の視界外射程空対空ミサイル(BVRAAM)「ミーティア」が対象。防衛省は、この欧州共同開発の長距離ミサイルを、日本が次期主力戦闘機として42機導入する予定のF35戦闘機に搭載することを検討している。

英防衛大手MBDAのミサイル関連技術に、三菱電機が保有するシーカー技術を組み合わせ、シミュレーションを通じてミサイルの精度を高める技術を共同研究する。

航空機利用者のためのサイトのFlyTeamは22日、「ミーティア自体がMBDAというNATO諸国による国際合弁企業の開発であることから、これも研究成果がイギリス以外へ販売されることが想定されます。ミーティアはグリペン、タイフーン、ラファールが装備する予定で、F-35ライトニングIIへの搭載も期待されています」と報じた。

イスラエルが紛争当事国ではない?

日英共同研究のミサイル技術向上の成果が将来的にF35に生かされる場合、イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続けているイスラエルにも日本のミサイル技術が流出する恐れがある。F35は、米英など9カ国が共同開発中だが、そうした開発参加国に加え、イスラエルやシンガポール、日本、韓国が導入を予定している。最終的には世界各地で3000を超えるF35の導入が見込まれている。

問題は、F35の維持管理においては、すべてのユーザー国を想定したALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)という国際的な後方支援システムを採用していることだ。ALGSでは、ハマスとの戦闘を続け、多くの民間人を犠牲にして批判を浴びているイスラエルもF35ユーザー国の一員であることから、F35の部品などの移転を受けることができる。そもそもALGSの強みは、全てのユーザー国が共通の在庫プールを通じて世界規模で部品などを融通し合うことにある。

ただし、米国もイスラエルもすでに独自の中距離空対空ミサイルを生産しており、F35にミーティアを搭載する可能性は低いとの見方もある。

ハマスとの戦闘を続けるイスラエルだが、日本の防衛装備移転三原則では、「紛争当事国」には当たらない。同三原則は、紛争当事国を「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国」と定めており、現在のところ、地球上には「紛争当事国」は存在しないことになっている。アフガンニスタンに出兵中の米国や英国も紛争当事国にはあたらない。それどころか、アフガンもイラクも、そして、イスラエルも紛争当事国になっていない。イスラエルは中東での米国の最大の同盟国であり、米国の軍事支援を伝統的に受け続けている。米国はかつてPAC2もイスラエルに輸出したこともある。

18日の記者会見で、米国からイスラエルのPAC2の今後の輸出について問われた小野寺防衛相は「これは、今回のPAC2自体の生産国であります米軍が、その判断の中で対応されるということだと思います」と述べるにとどまった。

米国の軍事専門誌「Defense News」が毎年発表する最新の「主要軍需企業売り上げランキング」でも、33位に三菱重工業、44位にNEC、51位に川崎重工業、53位に三菱電機が入り、上位100位以内にコマツまでの9社の日本企業がランクインしている。武器輸出の解禁とともに、こうした企業は今後、上位に入っていくかもしれない。

防衛省によると、自衛隊の海外メーカーとの契約総額のうち、2割がライセンス生産品だという。こうしたライセンス生産品をライセンス元に納入する場合、PAC2の時と同様、第三国への移転をめぐる事前同意が不要となる。

日本にとって、米国から大規模に先端兵器を輸入するという行為はプラス、マイナス両面の効果をもたらしてきた。米国の兵器を輸入することで日本の軍事力は大きく向上する一方、軍事的な対米依存度が逆に高まり、政策の自立度の低下や産業技術基盤の衰退を招いてきた。これは、対米依存が根強い日本の特殊性でもあり、ジレンマとも言える。

今後、米国との間の共同開発がそうであるように、米国以外の、例えば英仏といった欧州諸国と共同開発実行中に相手国が紛争に巻き込まれるような場合、防衛装備移転三原則の成立条件を満たさなくなったとして、日本は果たして離脱できるのであろうか。共同開発参加国のみならず、途中離脱は日本にとっても大きな損害を被ることになるだろう。

また、平和国家としての基本理念を掲げる日本であるが、同盟国の米国は世界戦略の中で防衛装備を運用している。欧州とでも、運用理念の統一は困難を伴うことが予想される。運用面での齟齬(そご)を可能な限り減らすために、日本は、世界最大の武器輸出国である米国に対し、大量殺害や弾圧での使用が予想される銃や戦車など通常兵器の国際取引を規制する初の枠組み「武器貿易条約(ATT)」に早く批准するよう求めるべきだろう。

徹底した情報の詰めが必要

日本の武器輸出の今後の課題について、財団法人ディフェンス・リサーチ・センター(DRC)の上田愛彦理事長は「その国の安全保障環境がどうなっているのか。どの国にどの程度の技術移転をしてもよいのか。武器を売却した場合、どうなるのか。今後は徹底した情報の詰めが必要になる。単に(国という)上からやれ、と言われても、企業現場は責任問題が起きかねないから、なかなか難しい」と指摘する。

上田理事長はその上で、現在、防衛装備の海外移転の可否を判断する部署が内閣官房国家安全保障局、外務省安全保障政策課、経済産業省安全保障貿易管理課、防衛省装備政策課の4つに分かれているが、これを一つに統合し、米国のペンタゴン並みに2000人規模のスタッフを擁する専門部署を日本にも設けるべきだと訴えている。

上田理事長は「ただ、専門部局を設けたとしても、官が主導では最新の技術の話などにはついていけない。官民合同が望ましいなか、6割を民、4割を官からのスタッフで構成すべきだ」と述べた。

兵器のハイテク化が進む中、そもそも「武器」「非武器」だけでなく、軍用品や民生品の線引き自体が難しくなってきている。例えば、日本が誇る電波吸収材は今やステルス戦闘機にさえ使われ、各国が虎視眈々と狙ってきた。数多くの汎用品で「軍」「民」 の垣根が低くなる中、防衛装備移転三原則が形骸化する恐れはあり得る。
posted by Kosuke at 14:53| Comment(6) | 東洋経済