2014年07月26日

防衛装備移転三原則に形骸化の恐れ

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防衛装備移転三原則に大きな抜け穴

初めての2事例を検証すると問題だらけ

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年7月25日

日本が購入するF35戦闘機に搭載するミサイル技術を日英で共同研究することになった(写真:U.S. Navy/アフロ)

日本政府は7月17日、国家安全保障会議(NSC)の閣僚会合を開き、迎撃ミサイル「パトリオット2(PAC2)」の部品の米国への輸出と、F35戦闘機搭載のミサイル技術をめぐる日英共同研究を認めた。日本の武器と関連技術の海外移転を原則として禁じてきた長年の禁輸政策を転換して、4月に定めた「防衛装備移転三原則」の下で初めてとなる2事例だ。

こうした武器の輸出解禁と国際共同開発は、日本の防衛企業の海外市場進出への足掛かりになるものだ。輸出による量産効果で自国での生産・開発コストを押し下げ、生産力や研究生産基盤を維持できるメリットがある。また、他国の高度な技術を吸収し、開発リスクの分散化も図れる。軍備のハイテク化で兵器価格が高騰するなか、社会保障費等の増大で財政難の日本にとっては、とりわけ兵器の調達コストを削減することが急務になっている。

防衛装備移転三原則とは?

4月に新たに定められた「防衛装備移転三原則」は以下の3つになっている。(1)紛争当時国や国際条約違反国など移転を禁止する場合の明確化、(2)平和貢献や我が国の安全保障に資する場合など移転を認め得る場合の限定と厳格審査、(3)目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保、だ。

しかし、こうした「防衛装備移転三原則」を今後もどこまできっちりと厳格に適用し、紛争当事国への流出を防止できるのかなど、課題も多い。特に日本は唯一最大の同盟国、米国の対外武器輸出の動向に左右され、敏感にならざるを得ない。米国は特別扱いとなっており、日本がなかなか歯止めをかけられないのが実情だ。そして、十分な人員体制と情報収集力を確保した専門部局による的確な判断や管理体制がなければ、いかに日本企業が独自の先端技術や製品を有していても、企業現場では海外進出にいつまでも二の足を踏む事態が予想される。今のところ、1987年の東芝機械ココム違反事件のような事態を恐れ、防衛装備品の輸出にはいまだおっかなびっくりの日本企業が少なくない。

今回、NSCで米国に輸出されることが決まったのは、地対空ミサイルPAC2のシーカー(目標捜索装置)に組み込まれている三菱重工業が生産するジャイロと呼ばれる部品。全長約6センチのこのパーツは、ミサイルが正確な軌道を動くよう姿勢を検知するもので、三菱重工はこの技術を航空機や衛星、船舶の姿勢制御にも用いている。

三菱重工は米防衛大手レイセオンのライセンスを受けて航空自衛隊のPAC2とその部品であるジャイロを生産してきたが、レイセオンによるジャイロ生産は既に終了。米国がPAC2の輸出を続ける中、三菱重工に対し、ジャイロを供給するように要請していた。

国内メディアではあまり報じられていないが、このジャイロの米国への輸出認可をめぐっては、あとさき逆なことが起きた。日本政府が、国家安全保障会議(NSC)を17日に開いてジャイロの米国への輸出を正式決定する前に、米国防総省(ペンタゴン)は14日、総額110億ドル(1兆1000億円)の防衛装備品をカタールに売却することで合意したと発表した。米国にとってこのカタールとの契約は今年最大の案件で、戦闘ヘリ「アパッチ」24機や歩兵携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」500基のほか、三菱重工から調達するジャイロを使ったPAC2も合意内容に含まれてきた。ペンタゴンは、この巨額契約で、米国内に5万4000の雇用が生まれるとも発表した。

日本がジャイロという日本製品の対米輸出をNSCで正式決定する前に、米国がカタールへのPAC2の売却を決めてしまってもいいのか。そもそもNSCは安倍政権が昨年12月、我が国の外交・安全保障に関する最高意思決定機関として鳴り物入りで設置したもので、そこに諮る前に米国に第三国への日本製品の輸出を決められてしまってもいいのか。

日本の事前同意なしで転売可能

この点について、防衛省装備政策課は「新たな防衛装備移転三原則ではライセンス元に部品を納入する場合、第三国への移転に日本の事前同意を義務付けていない」と説明した。そして、その上で、防衛装備移転三原則の二番目、三番目にあたる、仕向先や最終需要者(エンドユーザー)、適正管理について、「本件海外移転の仕向先は米国、最終需要者はPAC2を生産する米国のライセンス元であり、適正管理の確実性は高い」と強調。ジャイロの管理体制は誓約書などの文書で確認ができるとして、今回のNSCによる輸出認可となった、という。

それでは、米国がカタールとの契約を終えた後であっても、万が一、日本のNSCでレイセオンでの適正な管理が確保されないと判断された場合、ジャイロの輸出不許可はできたのか。この点について、外務省安全保障政策課は「(米国とカタールの契約の)あとからでも(日本の判断で)駄目だと言うことができる」と説明した。

しかし、形式的にはともかく現実的にそんなダメ出しをすることができるかどうかについては、疑問が残る。そもそも武器輸出三原則等の見直しの1つの理由として、1990年代半ば以降、「日米同盟の深化」も挙げられてきた。例えば、2009年8月の「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書では、ライセンス生産品の米国への輸出や、輸出品の米国から第三国への移転を可能とすることが、日米同盟の深化につながると述べられている。2011年6月に当時の北沢俊美防衛相が、日米で共同開発中の海上発射方式の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」について、日米以外の欧州を念頭に置いた第三国への移転を容認する方針を示した背景にも、米国側からの要請があった。

最近、防衛問題の勉強会で一緒になった陸上自衛隊の幹部(一等陸佐)は「米国にとって、日本はあくまでもワン・オブ・ゼム(one of them)。アメリカは日本の国内事情などに構っていられないのが実情」と指摘した。

今回、NSCで認可されたもう一つの案件の日英共同研究は、英国中心に仏、独、伊、スペイン、スウェーデンの6カ国が開発中の視界外射程空対空ミサイル(BVRAAM)「ミーティア」が対象。防衛省は、この欧州共同開発の長距離ミサイルを、日本が次期主力戦闘機として42機導入する予定のF35戦闘機に搭載することを検討している。

英防衛大手MBDAのミサイル関連技術に、三菱電機が保有するシーカー技術を組み合わせ、シミュレーションを通じてミサイルの精度を高める技術を共同研究する。

航空機利用者のためのサイトのFlyTeamは22日、「ミーティア自体がMBDAというNATO諸国による国際合弁企業の開発であることから、これも研究成果がイギリス以外へ販売されることが想定されます。ミーティアはグリペン、タイフーン、ラファールが装備する予定で、F-35ライトニングIIへの搭載も期待されています」と報じた。

イスラエルが紛争当事国ではない?

日英共同研究のミサイル技術向上の成果が将来的にF35に生かされる場合、イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続けているイスラエルにも日本のミサイル技術が流出する恐れがある。F35は、米英など9カ国が共同開発中だが、そうした開発参加国に加え、イスラエルやシンガポール、日本、韓国が導入を予定している。最終的には世界各地で3000を超えるF35の導入が見込まれている。

問題は、F35の維持管理においては、すべてのユーザー国を想定したALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)という国際的な後方支援システムを採用していることだ。ALGSでは、ハマスとの戦闘を続け、多くの民間人を犠牲にして批判を浴びているイスラエルもF35ユーザー国の一員であることから、F35の部品などの移転を受けることができる。そもそもALGSの強みは、全てのユーザー国が共通の在庫プールを通じて世界規模で部品などを融通し合うことにある。

ただし、米国もイスラエルもすでに独自の中距離空対空ミサイルを生産しており、F35にミーティアを搭載する可能性は低いとの見方もある。

ハマスとの戦闘を続けるイスラエルだが、日本の防衛装備移転三原則では、「紛争当事国」には当たらない。同三原則は、紛争当事国を「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国」と定めており、現在のところ、地球上には「紛争当事国」は存在しないことになっている。アフガンニスタンに出兵中の米国や英国も紛争当事国にはあたらない。それどころか、アフガンもイラクも、そして、イスラエルも紛争当事国になっていない。イスラエルは中東での米国の最大の同盟国であり、米国の軍事支援を伝統的に受け続けている。米国はかつてPAC2もイスラエルに輸出したこともある。

18日の記者会見で、米国からイスラエルのPAC2の今後の輸出について問われた小野寺防衛相は「これは、今回のPAC2自体の生産国であります米軍が、その判断の中で対応されるということだと思います」と述べるにとどまった。

米国の軍事専門誌「Defense News」が毎年発表する最新の「主要軍需企業売り上げランキング」でも、33位に三菱重工業、44位にNEC、51位に川崎重工業、53位に三菱電機が入り、上位100位以内にコマツまでの9社の日本企業がランクインしている。武器輸出の解禁とともに、こうした企業は今後、上位に入っていくかもしれない。

防衛省によると、自衛隊の海外メーカーとの契約総額のうち、2割がライセンス生産品だという。こうしたライセンス生産品をライセンス元に納入する場合、PAC2の時と同様、第三国への移転をめぐる事前同意が不要となる。

日本にとって、米国から大規模に先端兵器を輸入するという行為はプラス、マイナス両面の効果をもたらしてきた。米国の兵器を輸入することで日本の軍事力は大きく向上する一方、軍事的な対米依存度が逆に高まり、政策の自立度の低下や産業技術基盤の衰退を招いてきた。これは、対米依存が根強い日本の特殊性でもあり、ジレンマとも言える。

今後、米国との間の共同開発がそうであるように、米国以外の、例えば英仏といった欧州諸国と共同開発実行中に相手国が紛争に巻き込まれるような場合、防衛装備移転三原則の成立条件を満たさなくなったとして、日本は果たして離脱できるのであろうか。共同開発参加国のみならず、途中離脱は日本にとっても大きな損害を被ることになるだろう。

また、平和国家としての基本理念を掲げる日本であるが、同盟国の米国は世界戦略の中で防衛装備を運用している。欧州とでも、運用理念の統一は困難を伴うことが予想される。運用面での齟齬(そご)を可能な限り減らすために、日本は、世界最大の武器輸出国である米国に対し、大量殺害や弾圧での使用が予想される銃や戦車など通常兵器の国際取引を規制する初の枠組み「武器貿易条約(ATT)」に早く批准するよう求めるべきだろう。

徹底した情報の詰めが必要

日本の武器輸出の今後の課題について、財団法人ディフェンス・リサーチ・センター(DRC)の上田愛彦理事長は「その国の安全保障環境がどうなっているのか。どの国にどの程度の技術移転をしてもよいのか。武器を売却した場合、どうなるのか。今後は徹底した情報の詰めが必要になる。単に(国という)上からやれ、と言われても、企業現場は責任問題が起きかねないから、なかなか難しい」と指摘する。

上田理事長はその上で、現在、防衛装備の海外移転の可否を判断する部署が内閣官房国家安全保障局、外務省安全保障政策課、経済産業省安全保障貿易管理課、防衛省装備政策課の4つに分かれているが、これを一つに統合し、米国のペンタゴン並みに2000人規模のスタッフを擁する専門部署を日本にも設けるべきだと訴えている。

上田理事長は「ただ、専門部局を設けたとしても、官が主導では最新の技術の話などにはついていけない。官民合同が望ましいなか、6割を民、4割を官からのスタッフで構成すべきだ」と述べた。

兵器のハイテク化が進む中、そもそも「武器」「非武器」だけでなく、軍用品や民生品の線引き自体が難しくなってきている。例えば、日本が誇る電波吸収材は今やステルス戦闘機にさえ使われ、各国が虎視眈々と狙ってきた。数多くの汎用品で「軍」「民」 の垣根が低くなる中、防衛装備移転三原則が形骸化する恐れはあり得る。
posted by Kosuke at 14:53| Comment(6) | 東洋経済