2014年04月28日

東洋経済オンラインへの最新の拙稿です。「中国を武力攻撃するレッドラインはない」

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「すきやばし次郎」で歓談。安倍首相の思い届かず、1対1の会談は行われなかった(内閣府広報室提供)

「中国を武力攻撃するレッドラインはない」

明らかになった尖閣を巡るオバマ米大統領の真意

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年4月28日

大手新聞、テレビをはじめとする国内メディアは、4月24日に開かれた日米首脳会談では「オバマ米大統領が大統領として初めて、尖閣諸島に日米安全保障条約の第5条が適用されると明言した」ことを華々しく報じた。

しかし、これはややピントのずれた指摘といえる。今回の日米首脳会談の注目点はそこではない。むしろ、これまで対中強硬姿勢を続けてきた安倍晋三首相が、オバマ大統領に諌められ、中国との対話姿勢をとって緊張をこれ以上エスカレートしないように促されたことが、重要なポイントだ。

日米安保条約の第5条には、「日本国の施政の下にある領域」が攻撃を受けた場合、米国に防衛義務があることを記している。

大統領が首脳会談後の記者会見で「日本の施政下にある領土は、尖閣も含めて安保条約第5条の適用対象となる」と述べたことから、国内メディアはこの部分に一斉に飛びついた格好だ。大統領が明言したのだから、これで中国が尖閣諸島に攻め入ってきても米軍が日本を助けてくれるとの楽観ムードが、日本の政治家にもメディアにも蔓延している。


Our position is not new

こうした楽観ムードは、誤りだ。

米国による「尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用」は何も目新しいことではない。例えば、米政府はクリントン政権当時の1996年、キャンベル国防副次官補が「尖閣諸島は日米安保条約の対象になる」と明言。2004年のブッシュ政権下でも、当時のアーミテージ国務副長官が尖閣諸島への安保条約適用を再確認した。オバマ政権になってからの09年3月にも、米政府はこうした公式見解を日本政府に伝えた。

閣僚レベルで言えば、2010年9月に尖閣諸島で発生した海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件後の同月23日、当時のヒラリー・クリントン国務長官がニューヨークで前原誠司外相に「日米安保条約第5条は尖閣諸島にも適用される」と確約した。それ以降、歴代の国務長官と国防長官が何度も繰り返して表明してきたポジションだ。

それでも、「いや、中国の海洋進出をけん制する意味で、大統領自身の今回の明言は重要だ」と言う読者もいるだろう。では、当のオバマ大統領自身は24日の記者会見で何と言ったか。

尖閣諸島への日米安保条約の適用について、日本人記者から問われたオバマ大統領は「私たちの立場は新しいものではない(Our position is not new)」と切り出し、以下のように答えた。

「ヘーゲル国防長官が日本を訪れた時も、ケリー国務長官がこちらを訪れた時も、両方とも、私たちは一貫してこうした立場を示してきた。私たちは尖閣の領有権についての最終的な決定をする立場はとらない。しかし、歴史的にそれらは日本が施政下に置いてきた。そして、それらは一方的な変更にさらされるべきではないと思っている。これまでも一貫して述べてきたのは、私たちの日米同盟、つまり、日米安保条約は、日本の施政下のすべての領域に当てはまるということであって、これはなにも新しい立場ではない。これまで一貫して述べてきたことだ」

文字通り、オバマ大統領は「これがニュースではない」と言っており、過去から何も変わっていない立場である、と強調している。


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4月5日、来日中のチャック・ヘーゲル国防長官の表敬に応じる安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

尖閣諸島をめぐるオバマ政権の従前通りの姿勢については、安倍政権の中枢や日本の保守層が批判をしてきた。

つまり、日米同盟が本当に揺るぎないものであるなら、米国は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲内にある」などという婉曲的な言い方をせずに「尖閣諸島が攻撃占領されたら、米国は日本と一緒に戦う。日本を断固守る」と明確に言うべきだと。そのことが、中国に対する強烈な抑止力になるためだ。

なぜ米国はそう明確に言わないのだろうか。

そもそも米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域が武力攻撃を受けた場合でも、米軍がただちに100%、自動的に来援することを保障するものではない。この条文には「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という制約が付されている。米国の憲法では、宣戦布告権や軍隊の編成権、歳出権などは連邦議会に属している。

中国軍が尖閣諸島を武力攻撃し占領した場合に、果たして連邦議会が米軍の出動を認めるだろうか。

米議会には、米国に多数の犠牲と財政負担を強いたイラク戦争やアフガニスタン戦争の二の舞を恐れ、シリア攻撃さえもためらった厭戦ムードが根強くはびこっている。そんな米議会がすんなりと、極東の小さな無人島のために米軍出動の権限行使を大統領に授けるかどうかについては、疑問符が付く。

尖閣問題をめぐる中国に対する米国の実際の武力行使の可能性について、日米首脳記者会見中に、オバマ大統領のかなり踏み込んだ、極めて重要な発言があった。

オバマ大統領への弱腰批判が強まったシリアやウクライナ情勢を引き合いにして、CNN記者が中国に対する軍事行動を開始するレッドライン(越えてはならない一線)について質問をした。それに対し、オバマ大統領は「日米安保条約は私が生まれる前からあり、これは私が引いたレッドラインではない」と発言、「日本の施政下にある領土がすべて安保条約の適用範囲に含まれているというこの標準的な解釈は、いくつもの政権が行ってきた。この立場に変化はない。そして、レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」と述べた。

英語での発言は、以下の通りだ。


“The treaty between the United States and Japan preceded my birth, so obviously this isn't a red line that I'm drawing. It is the standard interpretation over multiple administrations of the terms of the alliance, which is that territories under the administration of Japan are covered under the treaty. There's no shift in position. There's no red line that's been drawn. We're simply applying the treaty.”

この発言の後半部分の「レッドラインは引かれていない。私たちはただ単に条約を適用している」との部分を聞いた中国共産党の指導者や人民解放軍の幹部らはどう思うだろうか。おそらく、にんまりほくそ笑んでいるはずだ。

これこそが、尖閣をめぐる、もっとも重要な発言といえる。日本の主要メディアとは異なり、米国の『ワシントンタイムズ』やボイス・オブ・アメリカ(VOA)といった主要メディアは、「米国は尖閣問題では中国にはレッドラインを引いていない」とのオバマ大統領の発言を見出しにとって大きく報じている。


対中強硬姿勢の安倍首相に忠告

今回の日米会談で何より目立ったのが、対中強硬姿勢を続けてきたと欧米諸国からみられている安倍首相が、オバマ大統領に強く諌められたことだ。すなわち、安倍首相は、対中強硬姿勢から対話路線に転じるよう、強く促された。オバマ大統領に対し、中国へけん制をするよう求めていた安倍政権にとっては、極めて厳しい反応だった。

記者会見でオバマ大統領は尖閣問題について次のように述べた。日米をはじめとする記者を前にした会見で、安倍首相に強く物申したことが如実にわかる内容だ。

「安倍首相との議論において、私が強調したのは、この問題を平和的に解決するということの重要性だ。状況をエスカレートさせるのではなく、発言を抑制し続け、挑発的な行動を避けることだ。どのように日本と中国がお互いに協力をしていくことができるかを決めるべきだ。そして、より大局的な見方をすれば、私たちアメリカは、中国とも強い関係を保っている。中国はこの地域だけでなく、世界にとって非常に重要な国である。明らかなことだが、多くの人口を抱え、経済も成長している。私たちは中国が平和的に台頭することを引き続き、奨励する。中国とは、貿易や開発、気候変動といった共通の課題で多大な好機が存在している」

さらに、「安倍首相に直接述べたが、この問題について、対話をせずに、事態がエスカレートし続けることは重大な間違いだということだ。日本と中国は信頼醸成措置を取るべきだ。そして、できる限りのことを外交的に、私たちも協力していきたいと思っている」と述べた。

オバマ政権は中国に対し、お互いを尊重する協調主義的な「関与政策」を推し進めている。その一方で、アジア太平洋地域で海洋進出拡大を続ける中国を米軍の強いプレゼンスでけん制する「抑止政策」 を、不測の事態に備えたリスクヘッジ(リスク回避)策として採用している。

対する日本。日本は、中国の強圧的な外交攻勢と軍事的な脅威に直面しているため、米国に「抑止政策」の強化を期待している。つまり、東アジアへのリバランス(再均衡)戦略を強化することを求めている。しかし、その思いとは裏腹に、最近の米国は「関与政策」を通じた米中の蜜月化が目立つ。2020年代前半には中国の国内総生産 (GDP)が米国を抜き、世界最大の経済大国に躍り出ることがほぼ確実視される中、米国の中長期的な戦略は、あくまで中国の巨大市場から利益を得ることが主眼の「関与政策」であり、最近はそれにぐっと軸足を置いてきている。

4月初めのヘーゲル国防長官の3日間にも及ぶ訪中でも、米中の「新型大国間関係」をさらに発展させた「新型の軍同士の関係」を築くことで米中が一致。ヘーゲル国防長官が、現在の米中の軍事交流の拡大に前向きで高い評価を与えていることを示した。

こうした米国の姿勢に対して、安倍政権では尖閣諸島や2013年11月に中国側が一方的に宣言した防空識別圏(ADIZ)など、中国が主張するところの「核心的利益(コア・インタレスト)」の拡大に米国が譲歩してきているのではないか、との疑念が高まっていた。

そんな中での来日である。オバマ大統領にはこれまでより、一段階も二段階もレベルアップした強い中国けん制の言葉を期待していたのだが、完全に期待外れに終わった。

今、米国では政界だけでなく、学界でも中国との将来の関係を見据え、中国に大幅に譲歩するような論説が登場している。シカゴ大学の著名な教授である、ジョン・ミアシャイマー氏は、「台湾に別れを告げよう(Say Goodbye to Taiwan)」という論文をナショナル・インタレスト誌(2014年3〜4月号)に寄稿。将来の緊密な米中関係を踏まえ、台湾が香港方式で中国本土に吸収されることが合理的な選択である、と論じた。


ますます密接になる米中連携

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日本科学未来館で子供たちを前に話をするオバマ大統領(内閣府広報室提供)

米中新時代の動きはかなり以前から起きている。

2004年に中国のパソコンメーカー・レノボ(聯想集団)がIBMのPC部門を買収。昨年9月には中国の食肉大手の双匯国際が、米豚肉生産大手のスミスフィールド・フーズを買収した。

つまり、パソコンでも食品でも農業でもこうした様々な業界での合併・買収を通じ、米中の経済分野での統合化や蜜月化はどんどんと進んできている。昨年の米中貿易額は初めて5000億ドル(51兆円)を突破した。

軍事関連分野でも、2011年1月には中国のステルス機J20(殲20)を開発した中国航空工業集団(AVIC)が米エアロスペース社と提携し、米海軍のヘリコプターや米空軍のジェット練習機の入札に参加することを『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』が報じた。2011年7月には実際に米空軍が中国傘下のシーラス・インダストリーズに練習機を発注するなど、密かに米中協力が進んでいる。

オバマ大統領に対中攻勢でブレーキをかけられた安倍首相。今後は好むと好まざるとにかかわらず、対中対話を重視したソフト路線へと舵を切ることになるだろう。

安倍首相は4月24日の日米首脳会談後の共同記者会見でも「中国については、法の支配に基づいて、自由で開かれたアジア太平地域を発展させ、そこに中国を関与させていくため連携していくことで合意した」「今後とも対中政策に関して、日米で緊密に連携していくことも確認した」と述べ、中国に対しては対決姿勢より関与政策に乗り出す考えを示した。

安倍首相からは今後、対中対話を積極的に目指す言葉や姿勢がさらに示されるはずだ。自国の防衛を米国に大きく頼っている以上、それはやむを得ない日本の現実なのである。
posted by Kosuke at 10:58| Comment(0) | 東洋経済

祝!シンガポールのザ・ストレーツ・タイムズに初掲載!

シンガポールの名門紙、ザ・ストレーツ・タイムズに初めてオピニオン記事を寄稿し、掲載されました。大学時代のサークルの一個先輩である佐野ひとみさんが現地で掲載紙の写真を撮ってくれました。佐野さん、ありがとうございます。そして、大学時代の島田ゼミの後輩である三森雄一君が掲載紙を郵送で送ってくれるとのこと。三森君、ありがとう!わーい(嬉しい顔)

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Japan frustrated with US' China policy (PDFバージョン)

Japan frustrated with US' China policy (ザ・ストレーツタイムズのサイト掲載)

The Straits Times

Published on Apr 25, 2014

Kosuke Takahashi, For The Straits Times


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By Kosuke Takahashi, For The Straits Times

US PRESIDENT Barack Obama has started a six-day trip to East and South-east Asia. In Japan, the first stop of his four-nation tour, Mr Obama was forced to adjust to a widening policy conflict over how to cope with a rising China.

The way the two nations deal with their differences on this issue in the coming months could have important implications.

Figuratively speaking, the United States and Japan may be sleeping in the same bed, but they are having different dreams. Mr Obama and Japanese Prime Minister Shinzo Abe cannot let this situation continue.

What exactly is it that divides the two nations? To understand, it is important to be familiar with a commonly accepted view in Tokyo about the current world situation.

With US naval hegemony fading, Japan sees China as moving to fill an emerging power vacuum in East Asia. The business-minded President Obama probably wanted the focus of his visit to be on the ongoing Trans-Pacific Partnership (TPP) deal with Japan in order to score political points ahead of mid-term elections in November. Instead, it was overshadowed by differences about how the two allies should deal with China.

Worried about Chinese claims in the East China Sea, the nationalistic Abe administration has adopted a very confrontational stance. It has also been bolstering the nation's defences in the Nansei island chain that includes Okinawa and the disputed Senkaku/Diaoyu islands. It has even tried to strengthen ties with countries and regions surrounding China, such as India, Mongolia, Russia, South-east Asia and Australia.

For the hawkish Abe government, the current Obama administration is a less reliable ally. This time, Mr Obama merely reiterated at a press conference in Tokyo the US position that the Senkaku Islands are administered by Japan and, therefore, fall within the scope of Article five of the US-Japan security treaty.

Mr Obama said that the US is opposed "to attempts to change the status quo by force". But no high-ranking US official has ever explicitly said "the US will fight with Japan once China occupies the Senkaku islands. We will defend Japan", or any comment to that effect.

The lack of a strong commitment from Washington is deepening Tokyo's suspicions about just how important the security alliance is to the US.

There is a growing scepticism among conservative political circles in Tokyo that the US is gradually bending over backward to appease China. Japanese political leaders are frustrated at the implicit US acceptance of China's intensifying efforts to send patrol ships near the Senkakus on an almost daily basis. US officials have certainly not condemned this latest evidence of China's increased assertiveness.

Some Japanese politicians also believe that Mr Obama's pivot to Asia has more to do with Washington's growing economic interest in China's massive markets, rather than concern about the need for new military deployments.

Earlier this month, US Defence Secretary Chuck Hagel even talked about a "new type of military relations" between China and the US, giving a positive assessment of bilateral military ties when he visited Beijing.

In the eyes of the Japanese, more and more US scholars also appear to have yielded to Chinese power. An article by University of Chicago professor John Mearsheimer entitled "Say Goodbye to Taiwan" in the March-April issue of the National Interest shocked Japanese experts. In it, he wrote that Taiwan will eventually have to give up even its present de facto independent status and seek a Hong Kong-style accommodation with Beijing.

As the examples of Ukraine, Syria and Iran illustrate, the Obama administration has been very reluctant to intervene decisively in world affairs. More and more Japanese are afraid this weak-kneed stance could also apply to the Senkaku Islands issue.

The left-liberal Obama administration, on the other hand, sees Mr Abe's nationalistic behaviour, such as his visit to the controversial Yasukuni Shrine last December, as a security risk. The patriotic act certainly ratcheted up already strained tensions with China and South Korea.

Washington is afraid that Mr Abe's historical revisionism on wartime Japan, combined with Japan's military buildup, will continue to cause needless friction with its neighbours.

On April 22, the Japanese media reported that former Deputy Secretary of State Richard Armitage told Shigeru Ishiba, the secretary general of the Japanese ruling Liberal Democratic Party, that there was no need for Tokyo to rush into reinterpreting the Japanese constitution to allow for the exercise of the right of collective self-defence.

Mr Armitage reportedly said he believed Japan should focus instead on the economy.

Such comments suggest that more US officials may regard Mr Abe a security risk if his nationalist policies lead to further tension with China and South Korea.

This is especially true when the US needs China's leverage and influence, if not support, on other international affairs such as on the Ukraine crisis and North Korea's nuclear and missile programmes.

It is hard to say whether either the US or Japan has a wrong foreign policy. It is natural for any nation to pursue its national interest as top priority. But the two nations do need to agree on how to deal with a rising China.

It is more than a matter of political styles. Many political experts in Tokyo view Japan's nationalistic prime minister and the liberalist US president as finding it difficult to get along on a personal level.

Both nations need to make a concerted effort to engage China rather than contain it. To ease regional tensions, Japan needs to agree with Beijing to shelve the territorial dispute over the Senkakus and try to establish crisis prevention mechanisms, such as hotlines.

Japan may want the US-led alliance to pursue a policy of encirclement against Beijing. But this would benefit only China's military hardliners, which in return could provoke a sharp backlash in Tokyo. Considering the pace of economic development in each country, Japan cannot compete with China in an arms race. Mr Obama appears to realise this, but Mr Abe does not.

And with the reaction of Japan's conservatives in mind, Mr Obama needs to be careful what he says. Speaking in Tokyo yesterday, the US president said that he had not drawn any new "red line" over the Senkaku islands.

Such comments, probably meant to emphasise the need to resolve maritime disputes peacefully, are unlikely to go down well in Japan.

stopinion@sph.com.sg

The writer is a Tokyo correspondent for IHS Jane's Defence Weekly.

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posted by Kosuke at 06:04| Comment(0) | ザ・ストレーツ・タイムズ

2014年04月20日

平成のゼロ戦、「心神」が年内初飛行へ

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東洋経済オンラインに、今年中の初飛行が予定されている「心神」こと先進技術実証機 (Advanced Technological Demonstrator-X, ATD-X)について書かせていただきました。心神については、ここ何年も資料を集め、Jane's Defence Weeklyと姉妹誌のJane's International Defence Reviewに何度も書いてきました。それを日本語で一気にまとめる形で書かせていただきました。軍事に詳しくない一般読者にできるだけ分かりやすいように書かせていただきましたが、どうでしたでしょうか?

読者の反響は大きく、20日午後23時30分過ぎの今現在で、Facebookの「いいね!」が3200を超え、Tweet数も1700を上回ってきました。予想以上に読まれていることに驚いています。なぜこんなに読まれているのか?やはり昨年から続く零戦ブームや、日本人の中にナショナリズムの高まりがあって心神の記事に日本人としての心や魂がくすぐられるからでしょうか?

いずれにせよ、日本語、英語問わず、最近、僕が書いた中で一番読まれている記事になりました。多くの方に読まれるのは記者冥利です。誠にありがとうございます。(^^)


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これが先進技術実証機「心神」の実物大模型

平成のゼロ戦、「心神」が年内初飛行へ

第6世代戦闘機となる"カウンターステルス機"の礎

高橋 浩祐:ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 

2014年4月20日

宮崎駿監督の最後の長編アニメ映画「風立ちぬ」、そして百田尚樹原作の「永遠の0(ゼロ)」の興行ヒットで、ゼロ戦(零式艦上戦闘機)への人々の関心や哀愁の念が高まっている。そんな中で、日本人の心をさらに引きつけそうな呼び名を持つ「平成のゼロ戦」が今年中に登場する。

将来の国産ステルス戦闘機の試作機となっている「先進技術実証機」(通称・心神=しんしん)が、年内に初飛行するのだ。小野寺五典防衛相が4月10日の参議院外交防衛委員会で、心神の今年中の初飛行を改めて明言した。

防衛省技術研究本部(技本)の関係者は「もともとゴールデンウィーク明けの5月にも心神をマスコミ陣にロールアウト(お披露目)する予定だったが、数カ月遅れている。初飛行は今年ぎりぎりになるかもしれない」と述べた。


ゼロの遺伝子を持つ「心神」

試作機とはいえ、事実上の「日の丸ステルス機」の第1号となるのが、心神である。技本は、1995年度から「実証エンジンの研究」を開始。2000年度からは機体のステルス性能試験やエンジン部分の推力偏向装置の開発を目的とする「高運動飛行制御システムの研究」も併せて実施した。そして、2009年度からは8カ年計画で「先進技術実証機」の予算項目の下、心神の機体製造や飛行試験など試作費用だけで392億円の予算を確保していた。

心神は現在、主契約企業の三菱重工業が、ゼロ戦を生んだ同社の名古屋航空宇宙システム製作所(旧・名古屋航空機製作所)の小牧南工場で、初飛行前の最後の大仕上げ作業が施されている。つまり、心神はゼロ戦と同様、名航で誕生するわけであり、その意味で「ゼロの遺伝子」を受け継いでいるといえる。今年後半の初飛行での成果を踏まえ、2016年度までに開発を終える予定だ。

そもそも「心神」という名称の由来は何なのかが気になるだろう。もともとは、技本の中の人間が愛称として使うようになって、それが定着したのだという。

近代日本画壇の巨匠である横山大観が、富士山を日本の「心神」と呼んでおり、富士山の絵を、多く描いたことで知られる。たとえば、1954(昭和29)年5月6日付の朝日新聞の記事の中で、横山は次のように富士山について述べている。「古い本に富士を『心神』とよんでいる。心神とは魂のことだが、私の富士観といったものも、つまりはこの言葉に言いつくされている。・・・(エベレスト)は世界最高の山だけに、さすがに壮大で立派だった。・・・素晴らしい壮大な山だとは思ったが、富士を仰ぐ時のような、なんというか清々とした感情はわかなかった。富士は、そういう意味でも、たしかに日本の魂だと、その時も思ったことだ」。

つまり、心神という名称には、「日本の魂」という思いが込められているようだ。


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富士山を背景に描かれた「心神」

心神の特徴は、優れたステルス性と機動性にある。敵レーダーに探知されずに敵を捕捉できる高いステルス性能、先進アビオニクス(航空機搭載の電子機器)、耐熱材料など、日本企業の技術を活用した高運動性を武器とする。

エンジンは双発。IHIが主契約企業となってアフターバーナーを備えたツイン・ターボファン方式のジェットエンジンXF5-1を開発した。最大出力は各約5トンで、2つ合わせて10トン級。各エンジンの出力方向を機動的に偏向するためのエンジン推力偏向パドルをエンジンの後方に3枚ずつ取り付け、エンジンの推力を直接偏向できるようにした。

この推力偏向パドルと、エンジンと飛行双方の制御を統合化したIFPC (合飛行推進力制御)技術によって、「従来の空力舵面では不可能な高迎角での運動性を実現した」と技本は説明する。つまり、この高度な制御技術を使えば、これまでだったら迎角が50度を超えて失速しそうな飛行場面でも、機体制御が可能となり、空中戦での戦闘能力が高まるとみている。

このほか、主翼と尾翼は富士重工業、川崎重工業が操縦席を製造している。機体の約3割に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われ、軽量化されている。


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IHI製のエンジン(筆者撮影)

心神は全長14.2メートル、全幅9.1メートル、全高4.5メートルの単座式だ。「世界最強のステルス機」とされる米国のF22やF2よりは小さく、T4中等練習機よりは大きい。最大速度は明らかになっていない。

心神は、F2戦闘機の後継機となる将来の「第6世代戦闘機」であるF3の生産に向けたプロトタイプ(研究試作機)である。つまり、防衛省は、心神を「第5世代戦闘機」と呼ばれる現在のステルス機の上を行く、「第6世代戦闘機」のカウンターステルス機の礎にすることを目指している。

航空自衛隊(空自)は昨年3月末現在で、ベトナム戦争で名を馳せた第3世代のF4を62機、主力戦闘機である第4世代のF15を201機、そして、米ゼネラル・ダイナミクス(後にロッキード・マーチンが軍用機部門を買収)のF16Cをベースに日米で共同開発された第4世代のF2を92機それぞれ有している。

このうち、老朽化して退役が迫ったF4の後継機として、2011年12月、民主党時代の野田佳彦政権の下、日本政府は米国主導で国際共同開発中のF35を次期主力戦闘機(FX)として選定した。


部隊配備は2030年代前半か

F2の後継機となるF3だが、開発の開始時期から考えて部隊配備は2030年代前半になってから、とみられている。このため、2030年代後半から退役が始まるF2の後継機となることが可能だ。しかし、2020年代後半から減勢が始まるF15の後継機となるのは時間的に厳しそうだ。技本の幹部は、「F3はF15の後継機としては間に合わない。F35がF15 の後継機となる」と打ち明ける。

ただ、こうなると、現在はF4、F15、F2の三機種体制が、将来はF35とF3の二機種体制になりかねない。設計ミスが見つかったり、原因不明の墜落事故を起こしたりして、両機に同時に「飛行停止措置」がかかった場合、運用可能な戦闘機がなくなってしまう。実際、2007年には一時的とはいえ、F15とF2が同時に飛行停止となり、老朽化したF4のみが日本の空を守る事態に陥ったこともある。

防衛省は、心神の開発を通じて得た次世代戦闘機に必要な技術やノウハウを生かし、今後数十年間でi3(情報化、知能化、瞬間撃破力)とカウンターステルス能力を備えた第6世代戦闘機を製造する計画だ。中国やロシア相手で戦闘機の数的な劣勢に立たされる中、日本企業が世界に誇る素材技術、パワー半導体デバイス技術、優れた耐熱材技術を活かすことを目指す。開発費用について、防衛省は「開発段階では、機体規模にも依存するが、5000億〜8000億円規模の経費が必要」と見積もっている。

ステルス戦闘機をめぐっては、中国が2011年にJ20(殲20)の初飛行を実施。ロシアも2010年からT50のテスト飛行を繰り返している。両国とも数年以内に配備すると見込まれている。ただ、技術の進歩は速く、将来的には次世代型のステルス戦闘機の主流が有人機ではなく、無人機になる可能性もある。既に、無人ステルス戦闘攻撃機として、米国のX-47B、フランスのニューロン、英国のタラニス、そして、中国の利剣がそれぞれ初飛行やテストフライトを終えている。これら次世代の無人攻撃機は将来、対地攻撃だけでなく、空対空の戦闘を可能にする十分な戦闘能力を持つかもしれない。

小野寺防衛相は4月10日の参議院外交防衛委員会で、F2の後継機となる将来戦闘機を国産、あるいは国際共同開発のどちらかにするか、2018年度までに最終判断すると述べた。しかし、国産計画には米国からの反対にあう可能性がある。事実、1980年代のFSX(次期支援戦闘機)開発をめぐる日米交渉でも、日本は米国からエンジンを輸入せざるを得ない弱い足元を見透かされて、F2の日米共同開発に追い込まれた。

FSX紛争に限らず、ステルス技術といった軍事技術ナショナリズムをめぐっては、同盟国とはいえども、米国は日本に対してシビアな態度をとってきた。軍事技術は秘匿性が高いので、当然と言えば当然だ。米政府と米議会は結局、日本を含めたF22の外国への売却を禁止し、同機を次期主力戦闘機の有力候補としてアテにしていた空自は大いに翻弄された。

心神のステルス性能についても、当初、日本は国内に試験施設がないため、米国に施設利用を依頼。ところが、米国はこの依頼を拒否。結局、フランスが2005年9月、自国の国防省装備局の電波試験施設の利用を快諾した。米国は後のF22の対日禁輸同様、その時も日本のステルス技術向上を嫌がった、とみられている。


国産化を恐れる米国の介入を懸念

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カラーリングを施した「心神」の模型(筆者撮影)

昨年12月に閣議決定された中期防衛力整備計画(2014〜18年度)では、将来の戦闘機について「国際共同開発の可能性も含め、戦闘機(F2)の退役時期までに開発を選択肢として考慮できるよう、国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図るため、実証研究を含む戦略的な検討を推進し、必要な措置を講ずる」と記されている。

F2後継機の国際共同開発の可能性について、10日の参議院外交委員会では、航空自衛官出身の自民党の宇都隆史参議院議員が小野寺防衛相に迫った。宇都議員は、日本独自の技術力で戦闘機を開発する方が国内産業界にとっても日本の防衛政策にとっても重要で、原則、国産を目指すべきだと小野寺大臣に質した。

これに対し、小野寺防衛相は「将来戦闘機についてはわが国独自の戦闘機開発技術が重要であること。当該技術が民間の他の分野に応用できるという波及効果を有していること」を認めたもの、将来の戦闘機の具体的な要求性能や日本の技術到達レベル、コスト面での合理性などを総合的に考慮して国産か国際開発かを決めていく考えを示した。

防衛省では、F3を国産にし、ライフサイクルコストなど4兆円規模の新規需要が発生した場合、約24万人の雇用創出効果があると試算している。また、心神自体も、95%が国内で製造され、約1000の部品メーカーや製造業者に新たな仕事をもたらしたと説明している。

米国による政治的な圧力や日本の財政赤字の増大がともに懸念されるなか、政治家や産業界、米国を巻き込んだ国産・自主開発派と国際共同開発派の攻防が待ち受けていることは間違いない。心神の初飛行によってその攻防の幕が切って落とされることになるだろう。

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東洋経済新報社



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